朝になったのに、昨日までの苦しさは残っている。何かを作り終えても、それだけで自分を好きになれるわけではない。
Galileo Galileiの「Rise of The Man」は、そんな割り切れない感覚に向き合う楽曲です。
この記事では、缶コーヒー、夜明け、過去の記憶、DJというモチーフから、自分の人生を嫌いながら、それでも愛そうとする心の動きを考察します。
※以下は、公開歌詞と制作背景を踏まえた一つの解釈です。
「Rise of The Man」の基本情報と制作背景
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| アーティスト | Galileo Galilei |
| 曲名 | Rise of The Man |
| 配信日 | 2026年10月28日 |
| 収録作品 | EP『Rise of The Man』の1曲目 |
| 作詞・作曲 | 尾崎雄貴 |
| 編曲 | Galileo Galilei |
配信日と収録内容は公式サイト、制作クレジットは歌ネットの掲載情報に基づいています。galileogalilei.jp
本作を収めたEPについて、尾崎雄貴は、バンドがこれまでの活動に一区切りをつけ、次の段階へ向かう過程で生まれた作品だと説明しています。また、第一章と第二章の間にある余白の景色を、EPのタイトルに結びつけています。これはEP全体についての制作コメントです。USENの音楽情報サイト「encore(アンコール)」
この背景を踏まえると、表題曲には、新しい段階へ進もうとする意志と、その場に残り続ける感情の両方を読み取れます。
タイトルの意味――立ち上がるまでの時間
「Rise」には、昇る、立ち上がるといった意味があります。
ここでは「Rise of The Man」を、一人の人間が自分の足で立とうとする姿を表すタイトルとして読んでみます。
立ち上がるという言葉からは、力強い決意や希望が思い浮かぶかもしれません。しかし、この曲を聴く手がかりになるのは、立ち上がろうとする人の足元です。
進む方向が見えても、これまでの経験は身体に残る。自分を変えたいと思っても、慣れ親しんだ考え方に戻ってしまう。
その揺れを含めて捉えると、タイトルには、完成した人間の宣言よりも、まだ途中にいる人が、自分を確かめる感触があるように思えます。
何を乗り越えたかだけで人の歩みを測ると、答えの出ない時間は見えにくくなります。この曲は、その途中の時間にも耳を向けさせます。
缶コーヒーが映す、自分への愛情と嫌悪
歌詞に登場する缶コーヒーは、日常の中にある小さな習慣として印象に残ります。語り手は、その習慣を未来の自分にまで重ねています。歌ネット
人生の節目を迎えても、毎日の手触りは案外変わらないものです。新しい目標ができた翌朝も、いつもの飲み物を選び、同じように一日を始めることがあります。
そう考えると、缶コーヒーは、過去と現在と未来の自分が地続きであることを感じさせる存在です。
大きく変わったつもりの自分と、変わらずに残る自分。その両方が同じ生活の中にいるからこそ、自分への嫌悪と愛情も簡単には切り分けられません。
嫌なところがあるたびに、これまでの人生をすべて否定する必要はあるのでしょうか。逆に、自分を愛するために、嫌なところまで好きだと言い切る必要はあるのでしょうか。
この曲からは、どちらかに決める前に、揺れ続ける自分を見つめる余地が感じられます。何気ない飲み物が、その長い時間を支える目印になっているようです。
自分の音楽に、自分自身を見せられる
歌詞では、自分たちの作った曲が語り手自身を映し出し、その自己認識に「ナルシズム」という言葉が与えられます。歌ネット
表現することには、自分で選んだものを人に見せる面があります。それと同時に、選んだつもりのなかった自分まで、作品から見えてしまうこともあるのでしょう。
なぜこの言葉を選んだのか。なぜ同じ感情に何度も戻るのか。
完成したものを見返すほど、自分の執着や弱さに気づいてしまう。そんな経験に照らすと、この場面には、自分を表現する人が、自分自身の観客にもなってしまう苦しさが感じられます。
ここで語られる自己愛は、創作の力にも、自分を疑う理由にもなり得るものとして読めます。自分に関心があるからこそ作れるものがあり、その関心の強さに息苦しくなる瞬間もある。
その矛盾を認めることは、自分の作品との距離を探し直す出発点になるのかもしれません。
過去の記憶と、かなわなかった別の人生
後半では、過去に関わる人々と、その人たちにあり得たかもしれない人生が思い浮かべられます。そこには、記憶を思い返すことと、受け止めることの隔たりが表れています。歌ネット
誰かを思い出すとき、私たちは、その人に実際に起きたことだけを考えるわけではありません。才能が報われていたら、苦しい環境から離れられていたら、好きなものを自由に選べていたら、と想像することもあります。
そうした想像には、その人の人生を大切に思う気持ちが含まれます。同時に、望んだ形に記憶を整えることで、起きたことの重さから目をそらしてしまう可能性もあります。
この曲の語り手は、想像を重ねる自分にも視線を向けているように読めます。
過去を語れるようになることと、その過去に納得できることには、距離があります。言葉にできたから終わり、というわけにはいかない。その距離があるために、後半の記憶は、整理済みの思い出として収まりません。
DJという名乗りをどう読むか
語り手が自分をDJと呼ぶ点も、この曲を考える手がかりです。歌ネット
DJは、音を選び、順序やつなぎ方を工夫しながら、一つの時間を作ります。この役割を、曲の中で記憶を呼び起こす語り手に重ねてみると、興味深い読み方ができます。
語り手は、自分の過去を選び出し、現在の言葉や音の中に並べ直しているのかもしれません。
出来事そのものを変更することはできなくても、何を思い出し、何と隣り合わせにするかによって、そのとき感じる意味は変わります。ただし、つなぎ直せることは、思い通りに救えることを意味しません。
その限界まで含めて自覚していると考えると、DJという名乗りには、表現する者の力と、その力の届かない場所の両方が感じられます。
MVが映す夜明けと、心に残るもの
2026年11月2日に公開された公式MVについて、Billboard JAPANは、バンド自身が監督・制作を担当し、夜から朝へと移る構成になっていると紹介しています。Billboard JAPAN
夜明けは、同名ツアーの公式ビジュアルでもキーワードとされています。作品やツアーの背景には、次の段階へ向かうバンドの姿があります。galileogalilei.jp
その背景を歌詞と重ねると、外の世界に光が差すことと、内面の問題が解けることの時間差が浮かび上がります。
状況が変わると、周囲からは前進しているように見えます。それでも本人にとっては、昔からの問いが昨日と同じ重さで残っているかもしれません。
だからこそ、この曲の夜明けには、迷いを抱えた人にも朝が来るという、静かな現実味があります。
過去を抱えたまま、次の音を鳴らす
「Rise of The Man」から読み取れるのは、自分の人生への評価が定まらないまま、それでも表現を続けようとする姿です。
自分を嫌う日がある。大切な記憶にさえ、うまく向き合えない。それでも、人と音を重ねる時間は続いていきます。
バンドという場を選ぶことには、自分一人の判断だけで閉じてしまわない可能性があります。他者の音や時間が加わることで、自分の見方も少しずつ変わっていくのかもしれません。
夜明けを迎えても、過去は消えない。その過去とともに、今日の自分が何を鳴らすのか。
本作は、その問いを答えの出ないまま手元に残します。**立ち上がることには、解決できていないものを抱えながら、次の一日を始める姿も含まれる。**そう受け取ったとき、この曲の不器用さが、聴き手自身の時間にも近づいてくるように思えます。


