BPM15Qの「はくちゅーむ」は、目まぐるしく変化する電子音と、かわいらしい歌声が強烈な印象を残す楽曲です。
歌詞には、さまざまな国の挨拶、アジアの都市や観光地、料理、さらには生まれ変わりを思わせる言葉まで、脈絡がないように見える単語が次々と登場します。
初めて聴いた人の中には、
「はくちゅーむとはどういう意味?」
「なぜ世界中の地名や料理が出てくるの?」
「TikTokでは“ことせ”の曲と表示されるけれど、誰の曲?」
と疑問に思った人も多いのではないでしょうか。
一見すると、意味よりも語感や勢いを重視した電波ソングのように聞こえます。
しかし、歌詞と音楽の構造を丁寧に見ていくと、この曲が描いているのは、現実の境界が崩れ、意識だけが世界中を飛び回っていく“白昼夢”だと考えられます。
「はくちゅーむ」は物語を理解する曲というより、夢に入り込んでいく感覚そのものを体験する曲なのです。
この記事では、タイトルに込められた意味、世界各地の言葉が登場する理由、BPM15QとCY8ERの関係、そして2026年に再び注目された背景を考察します。
「はくちゅーむ」はどんな曲?
「はくちゅーむ」は、苺りなはむとにかもきゅによる2人組ユニット・BPM15Qの楽曲です。
BPM15Qは2015年に結成されたニューエイジボーカルDJユニット。グループ名は「ビーピーエムイチゴーキュー」と読みます。
「はくちゅーむ」は2016年に発表され、同年11月23日発売のアルバム『BPM15Q ALL SONGS』に収録されました。その後、2022年1月にはアルバムのストリーミング配信も始まっています。
作詞は苺りなはむ、作曲はトラックメイカーのYunomiが担当しています。BPM15Q公式サイトにも、正式なクレジットが掲載されています。
Yunomiによる浮遊感のある電子音と、高速で跳ね回るようなビート。その上に、苺りなはむの自由な言葉遊びが乗ることで、かわいいだけでは終わらない不思議な世界が生まれました。
楽曲が発表されてから約10年が経過した2026年、TikTokをきっかけに再び大きな注目を集めています。
BPM15QとCY8ERの関係は?
「はくちゅーむ」を検索すると、BPM15QだけでなくCY8ERの名前が表示されることがあります。
これは、BPM15QがCY8ERの前身ユニットだからです。
BPM15Qは苺りなはむとにかもきゅによる2人組として活動した後、メンバー構成の変化を経てCY8ERへと発展しました。そのため、「はくちゅーむ」もCY8ERのライブなどで受け継がれています。
CY8ERは2021年1月の日本武道館公演をもって解散しましたが、その後、苺りなはむとにかもきゅはBPM15Qとして活動を再開しました。
つまり、「はくちゅーむ」はBPM15QとCY8ER、二つの時代をつないでいる曲でもあります。
現在の正式な楽曲名義はBPM15Qですが、CY8ERの曲として記憶している人がいるのも間違いではありません。
タイトル「はくちゅーむ」の意味とは?
タイトルの「はくちゅーむ」は、「白昼夢」をひらがなで表した言葉だと考えられます。
白昼夢とは、眠っているときに見る夢ではありません。
目を覚ましているにもかかわらず、現実から意識が離れ、夢のような空想や幻想に入り込んでしまう状態を指します。デジタル大辞泉では、日中に目覚めたまま空想を映像のように見ることと説明されています。
歌詞にも英語で「day dream」という言葉が登場するため、タイトルが白昼夢を意識している可能性は高いでしょう。
ただし、タイトルは漢字の「白昼夢」ではありません。
あえて「はくちゅーむ」とひらがなで書かれています。
この表記によって、少し難しく不穏な印象を持つ「白昼夢」が、やわらかく、かわいらしい言葉へ変化しています。
特に「ちゅ」という音には、キスや愛らしさを連想させる響きがあります。
つまり「はくちゅーむ」というタイトルは、現実から離れた幻想という意味を残しながら、それをBPM15Qらしい“ゆめかわいい世界”へ変換した言葉なのではないでしょうか。
世界各地の挨拶が登場する理由
歌詞の冒頭では、複数の言語による挨拶や感謝の言葉が次々と飛び出します。
日本語や英語だけではなく、韓国語、中国語、アラビア語など、異なる文化圏の言葉がほとんど間を置かずに並べられています。
ここで重要なのは、言葉の意味を正確に伝えることよりも、発音の面白さが重視されている点です。
それぞれの言葉は翻訳されず、響きのままリズムの中へ投げ込まれます。
私たちは本来、知らない言語を聞けば、その意味を理解しようとするでしょう。
ところが「はくちゅーむ」では、理解する前に次の言葉がやってきます。考える暇を与えられないまま、意識だけが別の国へ移動していくのです。
この感覚は、夢の中で場面が突然切り替わる瞬間とよく似ています。
さっきまで日本にいたはずなのに、次の瞬間には外国の街にいる。しかし夢の中では、その不自然さを疑いません。
多言語の挨拶は、世界の人々との交流を描くだけでなく、現実の秩序が崩れ始めたことを知らせる入り口なのです。
地名や料理が次々に現れるのはなぜ?
歌詞では、原宿や秋葉原から出発し、中国、台湾、韓国、シンガポールなどへと視界が広がっていきます。
しかし、これは現実的な旅行計画ではありません。
都市、観光地、食べ物が、地理的な順番とは関係なく次々と現れます。目的地に到着して何かを体験するのではなく、場所の名前だけが高速で通り過ぎていくのです。
そのため、歌詞に登場する土地は「主人公が実際に訪れた場所」というより、頭の中に浮かんだイメージの断片と考えられます。
旅行の記憶。
テレビやインターネットで見た風景。
食べてみたい料理。
いつか行ってみたい場所。
そうした断片的な情報が混ざり合い、一つの夢を作っているのでしょう。
夢の中では、日本の街と海外の観光地が隣り合っていても不思議ではありません。移動時間も国境も必要なく、思い浮かべた瞬間に別の場所へ行けます。
「はくちゅーむ」に描かれているのは、飛行機で世界を旅する物語ではなく、意識が一瞬で世界を横断していく空想の旅なのです。
意味不明な言葉の連続は“夢の論理”を表している
「はくちゅーむ」の歌詞には、前後のつながりを説明しにくい言葉遊びも数多く登場します。
食べ物から突然別の話題へ移ったり、音が似ているだけの言葉がつながったり、意味よりも発音の気持ちよさが優先されたりします。
通常の物語であれば、これは支離滅裂と判断されるでしょう。
しかし、白昼夢を描いた曲だと考えると、この支離滅裂さこそが重要になります。
夢の中では、原因と結果が正しくつながっている必要はありません。
似た音、色、感触、記憶などをきっかけに、場面は自由に変化していきます。論理ではなく、連想によって世界が作られているのです。
「はくちゅーむ」の歌詞も同じです。
一つの言葉が次の言葉を意味で呼び寄せるのではなく、音によって呼び寄せます。その結果、歌詞を読んで理解するより先に、耳と身体が反応する曲になっています。
意味が分からないのに、なぜか口ずさみたくなる。
脈絡がないのに、聴いていると一つの世界に感じられる。
この矛盾こそが、「はくちゅーむ」の中毒性の正体なのでしょう。
「半醒半睡」「幽体離脱」が示す意識の揺らぎ
明るくかわいらしい楽曲ですが、歌詞の中には「半醒半睡」「幽体離脱」「輪廻転生」「因果応報」といった、少し不穏で重たい言葉も登場します。
半醒半睡とは、目覚めているとも眠っているとも言い切れない状態です。
これはまさに白昼夢の入口といえるでしょう。
身体は現実に残っているのに、意識だけが別の場所をさまよう。そこからさらに身体を離れ、生まれ変わりや時間の循環へと連想が広がっていきます。
ここまで来ると、主人公は単に海外旅行を空想しているのではありません。
自分がどこにいるのか。
今がいつなのか。
そもそも自分とは何なのか。
そうした現実の座標まで、少しずつ失い始めています。
かわいい歌声と高速のビートに包まれているため恐怖は強く感じませんが、歌詞だけを見ると、かなり奇妙な意識状態が描かれています。
「はくちゅーむ」の魅力は、“かわいい”と“不気味”が同じ場所に存在していることです。
夢の中は楽しいだけではありません。
どこへでも行ける自由がある一方で、自分が帰る場所を見失う危うさもあります。
その両方をポップな音楽へ変えているからこそ、この曲は一度聴いただけでも強く記憶に残るのでしょう。
なぜ歌詞の世界は「ぐるぐる」回るのか
この曲では、前へまっすぐ進む動きよりも、回転する動きが繰り返し強調されています。
世界を旅しているように見えて、実際には目的地へ近づいているわけではありません。同じ場所を回りながら、見える景色だけが次々と変わっていきます。
これは白昼夢の構造そのものです。
現実の旅行には出発地と目的地がありますが、夢には終着点がありません。
一つの連想が別の連想を生み、その先で最初の場所へ戻る。曲がループするように、意識も回り続けます。
さらに、Yunomiによる電子音も回転する感覚を強めています。
細かく刻まれるビート、上昇と下降を繰り返す音、何度も戻ってくるフレーズ。歌詞だけでなくサウンドそのものが、聴き手の平衡感覚を揺さぶります。
だからこそ、TikTokで流行した“回るダンス”とも相性が良かったのでしょう。
流行した振り付けは、歌詞の内容を説明するものではありません。
しかし、曲の中にある回転感覚を身体で再現しています。
聴くだけだった白昼夢が、踊ることで目に見える形になったのです。
「はくちゅーむ」は現実逃避の歌なのか
白昼夢という言葉には、現実から逃げて空想にふけるというイメージもあります。
では、「はくちゅーむ」も現実逃避を歌った曲なのでしょうか。
確かに、歌詞の主人公は現実的な時間や場所から離れています。しかし、そこには暗い閉塞感がほとんどありません。
むしろ、世界の果てまで進みたいという勢いと、まだ止まりたくないというエネルギーが曲全体を動かしています。
そのため、この曲の白昼夢は、現実から隠れるための夢ではないように感じられます。
現実にある国境や距離、言語の違いを飛び越え、自分の想像力をどこまでも広げていくための夢です。
分からない言葉があってもいい。
正しい道順でなくてもいい。
物事の意味がきれいにつながらなくてもいい。
それでも、興味を持った方向へ進み続ける。
「はくちゅーむ」は、理解できない世界を恐れるのではなく、その混乱ごと楽しもうとする歌なのではないでしょうか。
なぜ2026年に再ブレイクしたのか
「はくちゅーむ」は新曲ではありません。
2016年の発表から約10年を経て、2026年にTikTokで再び大きく広がりました。
2026年7月、BPM15Q公式Xは、同曲がTikTok音楽チャートへ初めてランクインし、関連投稿が43万件を超えたと発表しています。BPM15Q公式X
TWSやすとぷりも楽曲を使用し、ACEesの佐藤龍我とHIKAKINによる動画なども投稿されました。THE FIRST TIMESでも、2026年にバズっている曲の一つとして紹介されています。
再ブレイクした理由として、次の点が考えられます。
短い動画で印象を残せる
「はくちゅーむ」は、途中から聴いてもすぐに曲の個性が伝わります。
耳に残る発音、高速のビート、繰り返される動きがそろっているため、数秒の動画でも強い印象を残せます。
歌詞と振り付けを結びつけやすい
曲の回転感覚を、そのまま身体の動きへ変換できます。
複雑なストーリーを演じなくても、回転するだけで楽曲の特徴を表現できることが、多くの人が参加しやすい理由になったのでしょう。
2010年代の音が新鮮に聞こえる
発表当時の「はくちゅーむ」は、インターネットやクラブカルチャーから生まれた先鋭的な楽曲でした。
約10年後に初めて聴く若い世代にとっては、懐かしい曲ではなく、新鮮で個性的な新曲のように聞こえます。
過去の作品でありながら、現在のショート動画文化と自然に結びついたことが、再発見につながったと考えられます。
Sped Up版とSlowed版が配信された
2026年4月11日には「はくちゅーむ(Sped Up)」、同年8月7日には「はくちゅーむ(Slowed)」が配信されました。Apple Music
再生速度を変えたバージョンが正式に用意されたことで、ショート動画やリミックス文化との相性がさらに高まりました。
もともと時代を先取りしていた曲が、2026年になって最適な拡散場所を得たともいえるでしょう。
TikTokで表示される「ことせ」とは?
TikTokで「はくちゅーむ」を知った人が混乱しやすいのが、「ことせ」という名前です。
流行している音源ページの一部では、「はくちゅーむ-ことせ」と表示されています。そのため、「ことせという人が歌っている曲」「ことせが作曲した曲」と思われることがあります。
しかし、公式クレジットでは、
- 歌唱:BPM15Q
- 作詞:苺りなはむ
- 作曲:Yunomi
となっています。
2026年のSped Up版についても、リミックスはYoS、ボーカルはBPM15Qと明記されています。TuneCore Japan
したがって、「ことせ」は公式の歌手名や作詞・作曲者名ではありません。
TikTokでは、ユーザーが投稿した音源に投稿者名が紐づいた状態で拡散されることがあります。今回も、流行に使われた音源ページ上の表示である可能性が高いでしょう。
ただし、その表示が生まれた詳しい経緯は公式から説明されていません。
少なくとも、楽曲を紹介する際の正式なアーティスト名はBPM15Qです。
「はくちゅーむ」が今も新しく聞こえる理由
「はくちゅーむ」は、2016年という時代に閉じ込められた曲ではありません。
世界各地の言葉が一つの曲の中で混ざり合い、短いフレーズが高速で切り替わり、意味よりも音と感覚によって人とつながっていく。
この構造は、国境を越えて動画が流れ、知らない言語の曲でも同じ振り付けで楽しめる現在のSNS文化とよく似ています。
歌詞の意味を完全に理解していなくても、一緒に回り、一緒に踊ることはできます。
むしろ、分からない部分が残っているからこそ、自分なりの楽しみ方が生まれます。
「はくちゅーむ」は、TikTokの登場を予言して作られた曲ではありません。
それでも、約10年後の文化がこの曲に追いついたように感じられます。
時代遅れになるどころか、聴かれる場所が変わったことで、本来持っていた魅力がようやく広く伝わり始めたのではないでしょうか。
まとめ:「はくちゅーむ」は世界を一つの夢に変える歌
BPM15Qの「はくちゅーむ」は、現実と夢の境界が溶けていく感覚を、言葉と電子音で表現した楽曲です。
タイトルは、目覚めたまま幻想に入り込む「白昼夢」を、かわいらしい響きへ変えた言葉だと考えられます。
歌詞に登場する世界各地の挨拶、地名、料理は、現実的な旅行の記録ではありません。
頭の中に浮かんだ景色が次々と切り替わり、国境も時間も飛び越えていく、意識の旅を描いているのでしょう。
意味がつながらない言葉遊びも、白昼夢の中では間違いではありません。
論理から自由になることで、聴き手は意味を考える前に、音楽の中へ巻き込まれていきます。
そして2026年、回転するダンスやショート動画を通じて、多くの人が同じ夢へ参加するようになりました。
一人の頭の中にあった白昼夢が、約10年の時間を越えて、世界中の人が共有する夢へ変わった。
それこそが、「はくちゅーむ」が今あらためて注目されている理由なのではないでしょうか。


