1. 「雪月花」に込められた“匂い”が呼び起こす記憶と感情
ヤングスキニーの「雪月花」において、最も印象的な歌詞の一つが「あなたと同じ匂いが指からした」というフレーズです。多くのファンがこの部分に強い共感を抱いており、香りを通じて蘇る過去の記憶や感情がリアルに描かれています。
嗅覚は五感の中でも最も記憶と密接に結びついていると言われており、特定の香りによってかつての誰かや、過ごした時間を一瞬で思い出すことがあります。歌詞における「匂い」は、ただの比喩ではなく、感情をリアルに掘り起こすトリガーとしての役割を果たしているのです。
「雪月花」では、過ぎ去った時間とその余韻が“匂い”という形で静かに立ち上がり、聴き手の胸に刺さるようなノスタルジーを呼び起こします。
2. MVとの繋がり：前作「ベランダ」との物語的リンク
「雪月花」のMVは、前作「ベランダ」と登場人物やロケーションがリンクしており、まるで一つの物語の続きであるかのように構成されています。特に、同じ俳優が出演している点や、ベランダでのシーンの使い方において、時間が経過した後の心情変化を描いていると多くの考察ブログで取り上げられています。
「ベランダ」では別れの場面がクローズアップされていたのに対し、「雪月花」ではその後の“思い出として残る存在”が描かれている点が印象的です。直接的な描写は少なくとも、MVの演出や小物の使い方が繊細に感情を補完しており、視覚的な表現と歌詞のリンクがより楽曲の世界観を深めています。
このように、ヤングスキニーは視覚と聴覚の両面から一貫した物語性を築くことで、リスナーに強い没入感を与えています。
3. 歌詞の背景構造：実体験8割・妄想2割の創作スタイル
「雪月花」の歌詞について、ボーカルのかやゆーはインタビューで「今回はあまり実体験ではなく、妄想から生まれたもの」と語っています。それにもかかわらず、リアルな感情描写や人間関係の描き方に多くのリスナーが共感を覚えているのは、日常に潜む微細な感情を丁寧に掬い上げているからでしょう。
ヤングスキニーの楽曲全般に通じるのは、「8割実体験、2割妄想」というスタイル。つまり、自分たちの経験をベースにしながらも、リスナーが自分の記憶や感情を重ねやすいように、ある程度の“空白”を残しているのです。この構成が、多くの人にとって「自分の物語のように感じる」理由となっています。
「雪月花」もまた、そうした構造の中で自然に生まれた楽曲であり、たとえ妄想の産物であっても、かやゆー自身が「匂いの描写は自然に出てきた」と話すように、リアルな感情が随所に滲み出ています。
4. タイトルの選び方：「雪月花」という言葉が染みる理由
「雪月花」という言葉は日本の古典的な美意識を象徴する語であり、「雪・月・花」という自然の美しさを並べた風流な表現です。ただし、ヤングスキニーの場合、このタイトルは深い意味を込めて選ばれたというよりも、Cメロの歌詞に出てくるフレーズがきっかけだったと明かされています。
実際、かやゆーは「Cメロで“雪月花”って言ってて、言葉の響きがよかったからそのまま曲名にした」と話しており、その“偶然性”が逆にこの曲の儚さや余韻のある世界観にぴったりと合っています。
意図的なメッセージよりも、感覚に従って選ばれた言葉が曲全体の雰囲気と調和している点は、ヤングスキニーの持つ自然体の魅力とも言えるでしょう。
5. バンド全体の文脈：EP『不器用な私だから』における顔出しの一曲
「雪月花」は、ヤングスキニーのEP『不器用な私だから』の1曲目として収録されており、このEP自体が“自分らしさ”や“不器用さ”と向き合う内容になっています。その中で「雪月花」は、リスナーにとって非常に入り口として機能する曲であり、アルバム全体の感情を先取りするような役割を担っています。
特に、切ないけれど優しいトーン、未練と前向きさが混じり合う感情の揺らぎは、EP全体のテーマとも重なり、聴き手の心をゆっくりとほどいていくような印象を与えます。
また、ライブでも披露される頻度が高く、バンドとしてもこの曲に対する思い入れが強いことがうかがえます。「不器用だからこそ、真っ直ぐに想いを綴る」というヤングスキニーの姿勢が凝縮された一曲です。
🔑 まとめ
「雪月花」は、香りと記憶をモチーフに、失われた関係への未練や残り香のような感情を描き出した一曲です。MVやEP全体とのリンク性、制作背景にある“妄想とリアルの絶妙なバランス”によって、聴く人それぞれが自身の物語を重ねられる楽曲に仕上がっています。タイトルや表現も偶発的でありながら不思議と心に残る、ヤングスキニーらしい感性が光る名曲です。
