ピノキオピー(PinocchioP)の「ノンブレス・オブリージュ」は、タイトルからして一筋縄ではいかない曲です。
“ノブレス・オブリージュ(高い地位には義務が伴う)”を下敷きにしながら、“ノンブレス=息ができない/息継ぎできない”という言葉を重ね、息苦しさそのものをテーマにした楽曲として発表されました。MV公開時点でも「息苦しさ」を主題にした曲で、ボカロの特性を活かした“息継ぎのない構成”が特徴だと紹介されています。
この記事では、曲の基本情報→タイトルの意味→歌詞に込められたテーマ→印象的フレーズの読み解き→MVの補助線、の順で「ノンブレス・オブリージュ」の“息が詰まる正しさ”を整理していきます。
- 『ノンブレス・オブリージュ』とは(曲情報・投稿時期・収録アルバム・MV)
- タイトルの意味を解説|「ノブレス・オブリージュ」と“ノンブレス”の掛け合わせ
- なぜ“息継ぎできない”のか|曲構成そのものがメッセージになっている
- 歌詞全体の主題|「息が詰まる」社会で起きる同調圧力と分断
- フレーズ考察①「生きたいが死ねと言われ/死にたいが生きろと言われ」
- フレーズ考察②「正当防衛と言ってチェーンソーを振り回す/まともな人たちが怖いよ」
- フレーズ考察③「椅子取りゲーム」「無痛分娩で授かるベイブ」「壮大な内輪ノリを歴史と呼ぶ」
- サビの「I love you」は救いか皮肉か|“愛”の置かれ方を読む
- MV(えいりな刃物)で深まる解釈|映像表現と歌詞のリンク
- まとめ|この曲が伝える“呼吸を取り戻す”ためのヒント
『ノンブレス・オブリージュ』とは(曲情報・投稿時期・収録アルバム・MV)
「ノンブレス・オブリージュ」は、2021年6月2日に新曲として公開され(YouTube/ニコニコ)、クレジットは Music & Lyrics:ピノキオピー、Animation/Video director:えいりな刃物。
そして本曲は、**5thフルアルバム『ラヴ』(2021年8月11日発売)**に収録されています。公式ディスコグラフィでは、トラックリストの9曲目に「ノンブレス・オブリージュ」が掲載されています。
つまりこの曲は、単発の話題作というより、アルバム『ラヴ』の中で「愛(LOVE)」を別の角度から照らす一曲でもある。
“愛は救いか、拘束か、免罪符か”――そんな問いを、タイトルの時点で突きつけてくるのが本曲です。
タイトルの意味を解説|「ノブレス・オブリージュ」と“ノンブレス”の掛け合わせ
まず元ネタの「ノブレス・オブリージュ」は、一般に**「高い地位には義務が伴う」**という意味の言葉として説明されます。
ここに「ノンブレス(non-breath)」=“呼吸がない/息を止める”を重ねた造語が「ノンブレス・オブリージュ」。
要するにタイトルだけで、こう読めます。
- “立場がある者の責任”ではなく、「息ができない状態を強いられる義務」
- もしくは、**「正しくあろうとするほど呼吸が苦しくなる社会」**の皮肉
上位の解説記事でも、ブレス=呼吸/歌唱の息継ぎという両義性を踏まえ、「強制されるニュアンス」があると整理されています。
なぜ“息継ぎできない”のか|曲構成そのものがメッセージになっている
この曲の怖さ(そして凄さ)は、歌詞の内容だけじゃなく、“息継ぎのない”作りそのものが意味になっている点です。
公開時の紹介でも、ボカロの特性を活かした息継ぎのない構成=息苦しさの表現だと触れられています。
現実社会の“息苦しさ”は、だいたいこういう形でやって来ます。
- 休む間もなく評価される
- どんな発言も切り取られ、炎上の可能性がつきまとう
- 正しくいようとするほど、言葉の選択肢が狭まる
だからこの曲は「息が詰まる内容を歌っている」だけじゃなく、聴いている側にも軽い過呼吸みたいな圧をかけてくる。
“表現”が“体感”に降りてくる時点で、すでにメッセージは半分届いています。
歌詞全体の主題|「息が詰まる」社会で起きる同調圧力と分断
歌詞が描いているのは、「悪い人 vs 正しい人」という単純な構図ではなく、むしろ**“まともさ”が暴力になる瞬間**です。
解説記事でも、同調圧力や現代社会への風刺として読み解く流れが強い。
象徴的なのが、問いかけの形で出てくる(短い引用ですが)
「幸せ自慢はダメ? 不幸嘆いてもダメ?」という感覚。
幸せを語れば「マウントだ」と言われ、不幸を語れば「かまってちゃんだ」と言われる。
つまり、どっちに転んでも“安全圏がない”。ここに息苦しさの正体があります。
そして、その息苦しさが強まると、次に起きるのが分断です。
正しさの陣営が増えるほど、正しさ同士が互いを裁き合うようになっていく。
フレーズ考察①「生きたいが死ねと言われ/死にたいが生きろと言われ」
この一節(短い引用)は、いわゆる**ダブルバインド(二重拘束)**を鋭く言語化しています。
「こうしろ」と言われた通りにすると別の角度から叩かれ、「じゃあ逆をやる」とまた叩かれる。
ポイントは、ここが“個人の弱さ”の話に見えて、実は社会の設計不良を突いているところ。
- 「正解」を求める声が強いのに、正解は常に更新される
- みんなが“安全な態度”を探すほど、空気が濃くなって呼吸がしづらくなる
- その結果、人生のアクセルもブレーキも他人に握られる
「生きたい/死にたい」という極端な言葉は、極端な感情そのものというより、“逃げ場のなさ”を最大限まで圧縮した表現だと読むと、曲全体の息苦しさと繋がります。
フレーズ考察②「正当防衛と言ってチェーンソーを振り回す/まともな人たちが怖いよ」
ここで出てくる“チェーンソー”は、露悪の飾りじゃなくて、正義が暴力化する速度の比喩に見えます。
「正当防衛」と言った瞬間、攻撃のハードルが下がる。自分を“被害者側”に置けた途端、何をしても許される気がしてしまう。
そして恐いのは、暴れているのが「明らかな悪人」ではなく、タイトル通り“義務”を背負った、つまり自分では正しいと思っている側である点。
この曲の肝は「悪が怖い」ではなく、(短い引用ですが)**「まともな人たちが怖い」**にあります。
正しさが武器を持つとき、武器は“悪意”よりむしろ“善意”で振り回される。
その瞬間、世界は一気に息ができなくなる。
フレーズ考察③「椅子取りゲーム」「無痛分娩で授かるベイブ」「壮大な内輪ノリを歴史と呼ぶ」
この曲は、抽象論だけでなく、妙に具体的な比喩が刺さります。
- 「椅子取りゲーム」:限られた椅子(立場/承認/正しさ)を奪い合うゼロサム感覚
- 「壮大な内輪ノリを歴史と呼ぶ」:当事者だけが熱狂している争いが、あとから“正史”っぽく語られてしまう皮肉
- 「無痛分娩…」:本来は選べるはずの選択が、価値観の圧で選びにくくなる“同調圧力”の例示として読まれがち
ここで大事なのは、「これが唯一の正解だ」と断定することではなく、“選択できるはずの呼吸”が奪われる感じが、さまざまな題材に接続されている点です。
だから聴き手は、自分の生活のどこかに同じ圧を見つけてしまう。
サビの「I love you」は救いか皮肉か|“愛”の置かれ方を読む
アルバム名が『ラヴ』であることも踏まえると、この曲の「I love you」は、ただ甘い救済では終わりません。
読み方は大きく2つあります。
- 救いとしての愛
息が詰まる世界でも、誰か一人に向けた“好き”が呼吸になる、という読み。 - 免罪符としての愛
「愛してるんだから正しい」「愛のためだから許される」みたいに、愛が正義の衣になる読み。
この曲が巧いのは、どちらにも振れるように“配置”しているところ。
愛は確かに人を救う。でも同時に、愛は簡単に他人を裁く口実にもなる。
だからこそ『ラヴ』というアルバムの中で、この曲は“愛の危うさ”まで引き受けているように見えます。
MV(えいりな刃物)で深まる解釈|映像表現と歌詞のリンク
MVは、えいりな刃物が映像・アニメーションを担当。公式告知やニュースでも明記されています。
ここでは細かな場面解説は避けますが、MV全体の印象としては、
- 情報量が多く、落ち着いて“息をつく間”がない
- 目で追うほど圧が増し、曲の「ノンブレス」を視覚でも体験する
- かわいさ/ポップさの外側に、ひりついた違和感が残る
という、楽曲の構造とよく噛み合う設計になっています。
歌詞を読んで苦しくなった人ほど、MVで“苦しさの形”が見えて、逆に整理されることもあります。
まとめ|この曲が伝える“呼吸を取り戻す”ためのヒント
「ノンブレス・オブリージュ」は、社会の息苦しさを描くだけでなく、**息苦しさが生まれるメカニズム(正しさ/義務/同調圧力/分断)**を、音と言葉と構造で体感させる曲です。
最後に、この記事の要点を3つにまとめます。
「まともさ」が武器を持つとき、世界は一気に呼吸不能になる──そこがこの曲の核心
タイトルは「ノブレス・オブリージュ」をもじり、“息ができない義務”という皮肉を作っている
息継ぎのない構成そのものが、現代の“逃げ場のなさ”を表現している


