🎧1. 曲が生まれた背景:震災直前の完成とTAKUMAの想い
「その向こうへ」は、10-FEETのボーカル・ギターであるTAKUMAが東日本大震災の“直前”に書き上げたという楽曲です。リリースされたのは震災後の2011年ですが、曲自体はそれ以前に完成していたという事実が、後のインタビューでも語られています。
このタイミングの一致は偶然だったものの、結果的にこの楽曲は“震災を受け止めた先に進む心”を象徴する楽曲として、多くの人に希望や勇気を与える存在となりました。TAKUMA自身も「これは偶然以上の意味があると感じた」と振り返っており、この曲に込めた思いが現実と強く結びついたことで、より強い説得力を持つようになったのです。
2. 歌詞の主題:「擦り切れた願い」から「その向こう」へ歩き続ける意志
歌詞の冒頭、「描き続けて擦り切れた願いは…」というフレーズは、夢や希望を抱き続けてきたけれども、それがうまくいかずに疲弊してしまった心情を表しています。しかし、そこで終わらず「歩いてみた」と続けている点が、この曲の核とも言える部分です。
人は誰しも、努力や信念が報われない瞬間に心が折れそうになります。それでも、「擦り切れても、歩くことをやめない」ことこそが生きる意味だと、この歌詞は力強く語っているのです。
そしてこの姿勢は、10-FEETがこれまで一貫して持ち続けてきた「信念と継続」の精神にも重なります。彼らのスタイルと人生観が、そのまま楽曲に染み込んでいるように感じられます。
3. サビのメッセージ:「別れも記憶もその向こうへ」に込められた覚悟
サビの「君の声も/別れも記憶も/その向こうへ」という部分には、強い覚悟と希望が感じられます。大切な人との思い出や、別れの悲しみ――それらすべてを引き連れたまま、それでも「前に進む」と歌っているのです。
この「向こうへ」という言葉には、単なる物理的な距離以上に、心の状態や未来への意志が重なっています。過去にしがみつくのではなく、記憶を大切にしながらもそれを背負って一歩を踏み出す。そうした決断や行動に寄り添うような歌詞は、多くのリスナーにとって、人生の岐路で勇気をくれるものとなっています。
4. 歌い方・演奏スタイル:シャウトせずに伝える“エモーショナルな叫び”
10-FEETといえば、ラウドロックやパンク的なシャウトを得意とするバンドですが、「その向こうへ」に関してはサビであえて叫ばずに歌っている点が特徴です。TAKUMAはインタビューで「ここは叫ぶところではない、でも叫び以上のエネルギーを持って伝えたかった」と語っており、そこに音楽的な計算と感情のバランスが感じられます。
シャウトしないからこそ、言葉の重みやメロディの美しさが際立ち、リスナーの心により直接的に響いてくる。感情を押しつけるのではなく、共有しようとする姿勢が、この曲の大きな魅力の一つになっているのです。
5. 聴き手への訴求:共通体験としての“震災以降の日常”との共振
「その向こうへ」は、リリース以降、震災の復興イベントなどでも演奏される機会が多く、被災地を訪れた際のTAKUMAのMCも含めて、多くの人の胸に深く刻まれました。あらゆる困難や喪失を経験した後でも、「その向こう」へ進もうとする感情は、聴く人の心と強く共鳴します。
それは、震災に限らず人生における喪失や転機、再出発のすべてに通じる普遍的なテーマであり、だからこそ世代や経験を超えて支持され続けているのです。
🗝️まとめ
「その向こうへ」は、10-FEETの音楽的成長とTAKUMAの人間性が結実した楽曲であり、震災という時代背景とも強くリンクする“生きる意志”の象徴です。擦り切れても、別れても、記憶を抱いてなお歩く――その姿勢は、多くのリスナーの心に希望を灯し続けています。