【スマイル/ホフディラン】歌詞の意味を考察、解釈する。

ホフディランの初シングルである「スマイル」の歌詞について考察します。
この曲は1996年に発表され、彼らのアルバム「多摩川レコード」に収録されました。
その人気ゆえにベストアルバムにも収められています。
また、女優の森七菜さんが2020年にカバーしたことでも話題になりました。

「スマイル」は初めに聴いた際には軽快なポップソングとして受け取られますが、歌詞を詳しく分析すると、皮肉屋のワタナベイビーらしい込められた「毒」に気付くことができます。
曲のテーマに対する彼らなりのアプローチが見受けられるでしょう。

作詞・作曲は渡辺慎(ワタナベイビー)によるものです。
ミュージックビデオも公開されており、まだご覧になっていない方はぜひチェックしてみてください。

これから、「スマイル」の歌詞を詳細に分析し、歌詞に込められた深層の意味に迫ってみたいと思います。

笑顔というモノの本質に深く切り込んだ歌詞

この楽曲は、サビからスタートします。
最初のサビ部分の歌詞に注目してみましょう。

いつでもスマイルしようね

とんでもないことが起きてもさぁ

可愛くスマイルしててね

なんでもない顔して出かけりゃいいのさ

ねぇ笑ってくれよ キミは悪くないよ

ねぇ笑ってくれよ さっきまでの調子で yeah

この一節を読むと、彼氏が彼女に対して励ましの言葉をかけている情景が浮かび上がります。
彼女が何かしら悩み事を抱えているのか、憂いを帯びた表情が見受けられます。
彼氏はそのような彼女に向かって「笑って」と声をかけ、慰めの意図を込めているように思われます。
この部分では、まだ皮肉や込められた「毒」の要素は感じられません。


これから、次の部分の歌詞を探求してみましょう。
ここからは、徐々に隠された皮肉や辛辣な要素が露わになってきます。

いつでもスマイルしててね

深刻ぶった女はキレイじゃないから

すぐスマイルするべきだ

子供じゃないならね

この部分では、「深刻そうな女性は美しくないから」という辛辣な言葉が現れます。
この言葉は強烈ですが、一方で、これは社会の現実を如実に表現しているとも言えるでしょう。
多くの人々は、若い女性に対して笑顔を期待します。
彼女たちがいつも笑顔でいることを望むのです。
明るい笑顔を見せる女性の方が、人々から好意的に受け入れられることが多いのです。
このメッセージは、彼氏が厳しい言葉を使って伝えていると言えます。

さらに、後に続く「子供じゃないならね」というフレーズも、同様に皮肉を含んでいます。
大人たちは時に「作り笑顔」をしています。
これは、本心では楽しくないのに、笑顔を作っている状態を指します。
なぜなら、笑顔を作っている人が好感を得やすいからです。
人々は一般的に、笑顔を見せる人に好意を抱きます。
そして、好意を持たれることでさまざまな利益を得ることができるのです。
彼氏は、こうした現実を指摘しており、「ほとんどの大人は、得をするために笑顔を作っている。だから君も、少なくとも表面的には笑顔を保った方がいいよ」という意味を含んでいるのではないかと考えられます。
この言葉も一見冷たいように感じられるかもしれませんが、実際には彼女に「社会の現実」を教えている側面もあるのです。


上手にスマイルできるね

こんな時は努力が必要さ

可愛くスマイルしててね

町中にキミを見せびらかすから

ねぇ笑ってくれよ 心配はいらないよ

ねぇ笑ってくれよ さっきまでの調子で 

yeah yeah yeah

この部分で歌われる「こんな時は努力が必要さ」という歌詞により、彼氏が彼女に向けて「笑顔を保つことに努力が必要だよ」というメッセージを伝えていることが分かります。
自然な笑顔を作ることが難しい時、無理をして笑うことは確かに苦痛を伴うものです。
その場面において、少し無理をしてでも笑顔を作ることが、彼の言葉の意図としてうかがえます。


いつでもスマイルしててね

完璧なんかでいられる訳がないだろう

すぐスマイルするべきだ

子供じゃないならね

ここで歌われる「完璧なんかでいられる訳がないだろう」という歌詞には、特別な印象が残ります。
これまでは彼氏が「上手にスマイルしててね」と励ましの言葉を送っていましたが、このフレーズで彼の言葉から離れ、ワタナベイビー自身の本音がにじみ出ているように感じられます。

世の中は大人に対して、常に完璧な笑顔を期待する傾向があります。
多くの人々が「嫌な時でも、常に笑顔でいるのが大人だ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
しかしながら、実際にはいつも完璧な笑顔を保つことは容易ではありません。
それにも関わらず、社会は常に「完璧な笑顔」を求める姿勢を見せることがあります。
この状況に対して、ワタナベイビー自身が「いつでも完璧な笑顔を保てるわけがない」と皮肉っている側面があるように思われます。


もうすぐだね あと少しだね

その時の笑顔が全てをチャラにするさ

もうすぐだね 長かったね

早くスマイルの彼女をみせたい

この箇所で歌われる「その時の笑顔が全てをチャラにするさ」というフレーズが興味深いです。
これは、「都合の悪い状況を笑顔でごまかす人々」への皮肉を込めたものと受け取れるかもしれません。
現実に、都合が悪くなると笑顔を装ってごまかす人々は存在します。
そして、その笑顔によって問題を解決したり、逃れたりすることもあります。
笑顔はそのような場面で役立つ道具と言えるでしょう。

しかしながら、都合が悪くなるたびに笑顔でごまかす人々を見ると、その姿勢に疑問を抱くこともあるかもしれません。
「本当にこれでいいのだろうか?」と思うこともあるでしょう。
笑顔で都合の悪い現実を隠し通すことが、本当に適切な対処法なのかという疑念が生じることもあるのです。


かわいくスマイルしててね

人間なんかそれ程キレイじゃないから

すぐスマイルするべきだ

子供じゃないならね

この部分で歌われる「人間なんかそれ程キレイじゃないから」というフレーズは、非常に強力な印象を与えます。
この言葉には、「なぜ無理に笑顔を装う必要があるのか」という疑問が込められているように感じます。
人間とは、良い側面だけでなく、悪い側面も持つ複雑な存在です。
暗い表情を見ると、気に入らないと感じて攻撃的な態度をとる人々も存在します。
しかし、常に笑顔を保つ人に対して攻撃的な姿勢をとることは少ないです。

こうした状況から、「いつも笑顔でいること」は、自己保身の手段として機能することがあります。
笑顔を見せることで、他人の攻撃や嫌悪を回避することができるのです。
歌詞では、「卑劣な人々から自分を守るために、笑顔を保つことが重要だ」とアドバイスしていると受け取れます。
この歌詞は、物事の本質に深く切り込んだ内容であり、そのインパクトには感嘆せざるを得ません。

まとめと森七菜さんの件

これまで「ホフディランの『スマイル』」の歌詞を詳しく考察してきましたが、感想をまとめます。
初めて聴いた際には、明るく無害な印象を受けるかもしれませんが、実際に歌詞をじっくり解析すると、かなりの皮肉や毒が込められていることが浮かび上がってきます。
この楽曲は、「笑顔を維持することが求められる社会」への皮肉や疑問を投影したものと言えるでしょう。

特に「人間なんかそれ程キレイじゃないから」というフレーズは強烈で、笑顔を作る必要性に疑問を投げかけています。
この歌詞は、「笑顔を装って現実をごまかすことの不自然さ」と向き合い、「笑顔の裏にある本音やストレス」に焦点を当てているように感じます。

一方で、「スマイル0円」というキャッチコピーに対する批判や疑問が歌詞に反映されている可能性も考えられます。
このキャッチコピーが、笑顔を提供することの難しさや、本来の気持ちとのギャップを浮き彫りにしていると解釈できます。

このような歌詞の奥深さは、ワタナベイビーの特徴であり、彼の皮肉や毒気のある表現が楽曲全体に反映されています。
ただし、2020年に女優の森七菜さんがこの曲をカバーした際には、歌詞の持つ皮肉の一部が軽減された印象があります。
歌詞の意図を十分に理解せずにカバーされることで、一部の聴衆には誤った印象を与えた可能性も考えられます。

もしまだ「スマイル」を聴いたことがない方がいれば、この文章を通じて歌詞の奥深さに気づいて、再度聴いてみることをおすすめします。
歌詞の皮肉や毒気が、曲の魅力を一層引き立てていることに気づくことでしょう。