MOROHAの楽曲「エリザベス」は、その独特な語り口とリアルな情景描写によって、多くのリスナーの心に深く突き刺さる一曲です。タイトルの「エリザベス」は誰のことなのか?なぜ“写真”や“カメラ”というモチーフが繰り返し登場するのか?この楽曲には、家族、恋人、人生、記憶といった多層的なテーマが込められており、その意味を読み解くことで、より深くMOROHAの世界観に触れることができます。
本記事では、楽曲「エリザベス」に込められた想いやメッセージを解釈し、歌詞に込められた深層を丁寧に考察していきます。
エリザベスとは誰か?タイトルに込められた「名前」の意味
まず注目すべきは、タイトルにある「エリザベス」という名前です。多くの人が最初に疑問に思う点ですが、これは実在の人物「エリザベス宮地」さんを指しているとされています。彼女は映像作家・カメラマンとしてMOROHAのライブ映像やMVを多数手掛けており、アーティストと深い信頼関係にある存在です。
このように、単なる比喩ではなく実在の人物の名前がタイトルに使われている点は、MOROHAのリアリズムとも言えるスタイルを象徴しています。そして「エリザベス」という名を通して、「撮る者」と「撮られる者」の関係性や視点の交錯を描き出しているとも言えるでしょう。
写真とレンズが象徴する記憶と愛情のモチーフ
「エリザベス」の歌詞では、“シャッター”、“フィルム”、“レンズ”、“写真”など、写真に関連するワードが繰り返し登場します。これらは単にカメラという道具の描写ではなく、「記憶をとどめるための手段」としての象徴的な役割を果たしています。
例えば、写真を撮るという行為は、過ぎゆく時間を一瞬だけ留めることができる行為です。楽曲中では、父親が娘を撮影する様子や、恋人との何気ない時間がシャッターに切り取られていく描写があり、それらは全て「愛情を残したい」という切なる願いに基づいています。
写真は一方で、写るものと写らないものを区別します。つまり、目に見える“形”は記録できても、温度や匂い、揺れる感情までは写らない。そこにこそ、MOROHAらしい“もどかしさ”が込められているのです。
「ハイチーズ」に現れる言葉の曖昧さと感情の交錯
歌詞の中盤には、印象的なフレーズがあります。「“ハイチーズ”って言った時、それは“愛してる”って言ってるのと同じだった」というようなニュアンスの表現です。
この言葉には、日本語の持つ“間”や“曖昧さ”がよく表れています。日常の中で発する何気ない言葉や行為が、時として深い意味を帯びることがあります。写真を撮る時にかける「ハイチーズ」という言葉も、その場にいる人への愛情や願いが込められているのだと、MOROHAは語っているのです。
こうした言葉の曖昧さは、感情の重なりを描く上で非常に効果的であり、リスナーの心をふと揺らす“気付き”をもたらします。
視点の重なり:父親・娘・恋人・被写体と観る者
「エリザベス」の歌詞は、視点の切り替えが非常に巧みです。語り手が父親であり、娘を見つめる視線であったかと思えば、突然恋人を見つめる視点になったり、母親の姿が現れたりと、時間と関係性が流動的に展開されます。
この多層的な視点の重なりは、人生における人間関係の複雑さを象徴しています。ある時は“撮る側”であり、またある時は“撮られる側”になる。その視点の移動の中に、「自分以外の誰かの人生」を見るという行為、そして「見られていることの自覚」が生まれます。
それは単なる記録ではなく、共感や理解、すれ違い、そして再発見の物語でもあるのです。
時間の流れと未来への願い:記憶を越えて生きるもの
「エリザベス」は、決してノスタルジーに閉じた楽曲ではありません。むしろ、過去を写しながらも未来を見据える視点が強くあります。歌詞には「いつか年老いた時も、アルバムを眺めて笑いたい」といった表現があり、今を残す行為が未来への投資であるという前向きな感情が込められています。
これは、記憶に頼らずとも、今の愛情が将来も続いてほしいという願いであり、写真を撮るという行為が「未来への手紙」として機能しているとも言えるでしょう。
時間が経てば、今の思い出は色褪せるかもしれません。けれど、それでも「大切にしたい」と思うその感情こそが、人を愛し続ける力となるのです。
おわりに:レンズの奥にある「あなた」の物語
MOROHAの「エリザベス」は、ただのラブソングでも、家族の歌でもありません。それは、“誰かの人生を見つめること”を通して、“自分の人生を見つめ直す”楽曲です。
歌詞に登場する写真、レンズ、シャッター、言葉たちには、消えることのない感情の痕跡が刻まれています。その一つひとつを拾い集めるようにして、この楽曲を聴き込むことで、リスナーそれぞれの「物語」が見えてくるはずです。
Key Takeaway
MOROHA「エリザベス」は、“写真”というモチーフを通じて、記憶、時間、愛情、視点の交差といった複雑な感情を描いた一曲であり、「撮ること=愛すること」という深いメッセージを内包している。