【Led Zeppelin】1番のおすすめアルバムはこれ!「In Through the Out Door」の批評と解説。

前提として、レッド・ツェッペリンは全てのアルバムがおすすめである

「レッドツェッペリンのアルバムでおすすめはどれ」という問いに回答するのは非常に難しい。

1stアルバム「レッド・ツェッペリンⅠ」から8thアルバム「イン・スルー・ジ・アウト・ドア」まで全てのアルバムに意味があるからだ。
また、オリジナル・アルバムに数えられないライヴアルバム「狂熱のライヴ」やジョン・ボーナム逝去後の9thアルバム「コーダ」の存在も忘れてはならない。

その他のコンピレーションについても重要なものがあったり、どの作品も良質で、ハズレはない。
レッド・ツェッペリンのアルバムに優劣の順位はない。

手っ取り早くレッド・ツェッペリンの事を知りたいのであればまだ記憶に新しい2007年にリリースされたベストアルバム「マザーシップ」を一日中リピートするのがいいと思うが、それではあまりにも投げやりな回答になってしまうので何とか頭を振り絞って「おすすめのアルバム」を一枚選んでみようと思う。

レッド・ツェッペリンというロックバンドには様々な要素がある。

ブルース直系のロックンロール、ヘヴィメタルの原型にもなったとされるリフ主体のハードなロック、緻密で壮大な構成を持つ長尺曲、その後のロバート・プラントの活動にも見られる叙情的なメロディを持ったケルト系フォーク、深く沈み込むようなドラッグ・ソングなど多彩な色を持ち、そのいずれもレッド・ツェッペリンを代表する要素と言い切れてしまうのが「おすすめ」に困るところでもある。

アルバムごとに色はある。
1st「レッド・ツェッペリンⅠ」には原石が詰まっていて、ロックンロール、リフ・ロック、プログレッシヴ、民族音楽、フォーク、トリップといったレッド・ツェッペリンが持っている全てのプロトタイプが収録されている。
2nd「レッド・ツェッペリンⅡ」はリフ主体のロックで骨太なツェッペリンを充分に堪能できるし、3rd「レッド・ツェッペリンⅢ」では民族音楽、ワールドミュージックの色が強く出ていて何度聴いても新しい発見がある。
最大のヒットとなった4th「レッド・ツェッペリンⅣ」には泣く子も黙る「Stairway to Heaven」が収録されており、他の楽曲に関しても文句の付け所のないクオリティとなっていて一切の無駄がない。

その後の作品でも5th「聖なる館」ではルーツ・ミュージックからの脱却を図り、新しいサウンドに挑戦した斬新さを持ち合わせていたり、6th「フィジカル・グラフィティ」ではそれまでの「ブルース直系のロック」から脱却し、全く新しい形のロックンロールを提示している。
7th「プレゼンス」は各メンバーの高い技量がぶつかり合うバンドアンサンブルで改めて4人の高いポテンシャルを確認できる作品だし、4人での最後のアルバムとなった8th「イン・スルー・ジ・アウト・ドア」は曲作りの面でも音響面でも円熟しきった4人の音を聴くことができる。

それぞれのアルバムにそれぞれの特色があり、しかもその全てが高いレベルにある。

どれか一枚、というのは本当に難しいのである。

逆に言えば、どのアルバムもおすすめできる、ということである。

私の選ぶ一枚はこれだ。
「イン・スルー・ジ・アウト・ドア」。

ジョン・ボーナムを含んだ4人による最後のオリジナルアルバムである。

おそらく、「レッド・ツェッペリンのおすすめのアルバムは」という問いに対してあまり出てくるようなアルバムではないと思う。

収録曲の半分以上はライヴで披露されたことがない。
このアルバムに収録されている楽曲で、ライヴで披露されたのは「In The Evening」「Hot Dog」「All My Love」の3曲のみで、後の4曲「South Bound Saurez」「Fool in the Rain」「Carouselambra」「I’m Gonna Crawl 」は(記録上)ライヴで披露されたことがない。
ライヴパフォーマンスに定評のあるレッド・ツェッペリンだが、ライヴで披露されたことがないというのは楽曲の真髄をメンバーもリスナーも測れていない、という事でもある。

それでもこのアルバムをお勧めしたい、というのにはもちろん根拠がある。

私はシンプルに、このアルバムに収録されている楽曲のクオリティの高さを評価する。

年月を経て、作曲面でも、プレイ面でも、レコーディング面でも、経験を積んだ事による影響がそのまま楽曲のクオリティの高さに直結していると思う。

特に一曲目「In The Evening」はペイジの奔放なギターをジョーンズのキーボードが彩り、ボーナムの力強いドラムスが支えるカラッとしたミディアムロックンロールナンバーで、セクシーなプラントの歌唱はアルバムの幕開けに相応しい仕上がりとなっている。

Oh, I need your love. I need your love.

「愛してやるよ」ではなく、「愛してくれよ」である。

金色の長髪を汗に濡らし、胸をはだけたプラントにこんな事を歌われたら女性でなくともクラクラっときてしまうのではないだろうか。

その他にも興味深い楽曲が収録されたこの「イン・スルー・ジ・アウト・ドア」を紹介していこう。

最も長いインターバルの末に発表されたアルバム

前作「プレゼンス」から今作まで長い間が空いた。

イギリスの音楽シーンではセックス・ピストルズとクラッシュがパンクロックムーヴメントを巻き起こし、レッド・ツェッペリンやピンク・フロイドと言った旧態依然の大物ロックバンドは時代遅れと揶揄された。

それにしても、ツェッペリンの「Ⅳ」が発売されたのが1971年、ピンク・フロイドの「狂気」が発売されたのが1973年である。
それから5年やそこらで「時代遅れ」になってしまうのだから、当時のイギリスの音楽シーンの移り変わりがいかに早いものだったか推して知るべし、である。

間が空いた原因の一つには病気で子供を失ったプラントの隠遁も影響していると思う。
愛する子供を失い、シンガーである事も、レッド・ツェッペリンのメンバーであることも捨てようと思っていた、というほど落ち込んでいたプラント。

ジミー・ペイジとスタッフはメンバーを集め、活動再開に向けてミーティングを行う。

ミーティングの結果、ニューアルバムの制作が決定し、8枚目の、そして最後の「4人のアルバム」である「イン・スルー・ジ・アウト・ドア」が芽吹いた。
リリースは1979年8月。
前作「プレゼンス」から3年半のインターバルはレッド・ツェッペリンのオリジナルアルバムでは最長である。

収録曲は以下の7曲である。

M1 In the Evening

M2 South Bound Saurez

M3 Fool in the Rain

M4 Hot Dog

M5 Carouselambra

M6 All My Love

M7 I’m Gonna Crawl

M1「In The Evening」は先程も紹介した通り、円熟味を帯びてカラッとしたロックンロールナンバーである。

M2「South Bound Saurez」だが、正しくは「South Bound Suarez」なのだという。
誤りであるとのことだが今日まで訂正はされず放置されている。

小刻みなジョーンズのピアノが楽曲をリードする中、リラックスしたペイジのギターが茶目っ気たっぷりに跳ね回る。

レッド・ツェッペリンの楽曲では珍しく、ペイジの名前がクレジットされていない。
つまり、ジョーンズとプラントによって作られた楽曲となる。

この曲に限らず、このアルバムの制作をリードしたのはプロデューサーであるペイジではなく、ベースの他にも様々な楽器を担当するマルチプレイヤーのジョン・ポール・ジョーンズである。

ジョーンズによるキーボード、シンセサイザーが全曲に渡って取り入れられ、そのせいかペイジのギターは幾分リラックスしているように聴こえる。

「ジョンジーがやりたいんだったらそれに合わせるよ」

ペイジのそんな微笑みが見て取れるようなギターだ。

続くM3「Fool in the Rain」では大胆にもサンバのリズムが取り入れられている。

正直なところ、あまりレッド・ツェッペリンに合っているとも思えない。

しかし、4人はこれはこれで−

楽しそうである。

そうなのだ。
続くM4「Hot Dog」も陽気なカントリーとなっていて、おどけるように歌うプラントはまるでミック・ジャガーである。

実際のところはどうだったかわからない。
しかし、アルバムを聴く限り、4人はとてもリラックスし、楽しんでレコーディングに望んでいたのではないだろうか。

張り詰めるような空気感ではなく、緻密に考えられた構成でもない。

期せずしてペイジではなくジョーンズが制作をリードすることによって良い意味でペイジの力が抜け、その結果、アルバムを通してリラックスした空気感が感じられる作品になったのではないだろうか。

ツェッペリンのアルバムの中で、最もリラックスした空気感に満ちたアルバム、このアルバムをそう表現してもあながち間違ってはいないのではないだろうか。

“やあやあ、ジョンジーがまたシンセで変な音を出しているぞ”

4人最後のレコーディングは、そんな風に進んでいったんじゃないだろうか。

M5「Carouselambra」の、ニューウェーブともテクノポップともつかないようなサウンドを聴いているとそんな風に思ったりする。

ただ、M6「All My Love」から少し空気が変わる。

ペイジのギターは哀愁を帯び、ジョーンズの儚いシンセサイザーはある一つの物語を彩る。

幼くして病死したプラントの息子に向けて作られたバラード。

しかしサウンドは力強く、吹っ切って前へ進もうとするプラントの確かな意思を感じる。

その空気感はアルバムラストのM7「I’m Gonna Crawl」でも引き続き感じられる。

揺蕩うような3連のリズムにエモーショナルなペイジのギターが絡みつく。
ボーナムのドラムスは感情のままに強くなったり弱くなったりする。
キャリアを経て、高度なテクニックと編曲能力を手に入れた4人のありのままの姿が、この曲にはある。

そして、この曲が結果的には4人でのレッド・ツェッペリン最後の作品となる。

そう思って聴くと、なんだかとてもエンドロールの合う楽曲に聴こえてこないだろうか。

レッド・ツェッペリンという奇跡の終着点。

夢の終わり。

このアルバムをお勧めする理由として、そんな文句をつけてみてもいいのかもしれない。