【燈/崎山蒼志】歌詞の意味を考察、解釈する。

TVアニメ『呪術廻戦』第2期のエンディングテーマは、崎山蒼志が特別に制作した曲『燈』です。
この曲は夏油傑を中心に、各キャラクターの複雑な感情を繊細に表現した歌詞を含んでおり、その意味や内容について考察してみましょう。

理想と現実のはざまで揺れる気持ち

シンガーソングライターの崎山蒼志は、最新シングル『燈(あかり)』を2023年7月19日にリリースしました。
この曲は、TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」のエンディングテーマとして特別に制作されました。

『呪術廻戦「懐玉・玉折」』では、特級呪術師の五条悟と夏油傑の高専生時代の出来事が描かれています。
このエンディングテーマ『燈』は、崎山蒼志自身の経験とリンクさせつつ、夏油傑の心情の変化と彼を取り巻くキャラクターたちの思いを表現した曲です。

曲は静かなサウンドに様々な音楽要素を組み合わせ、複雑な人の心情を表現しています。
歌詞には、この感情や思いが描かれており、その意味について考察していきましょう。

僕の善意が壊れてゆく前に
君に全部告げるべきだった
夜が降りて解けての生活に
混濁した気持ち掠れる燈

「僕の善意」はおそらく主人公がもともと持っていた良心やポジティブな感情のことだろうと考えられます。
主人公は、この内に秘めた善意が崩れつつあることを感じており、もっと早く大切な「君」に真実を伝えるべきだったと後悔しています。
連続する暗い日々の中で、複雑な感情が入り混じり、これまで心を照らしてくれていた「燈」が今は遠く薄れつつあるとの印象が受けられます。

仕方がないと受け入れるのなら
それまでだってわかっても
なんだか割に合わないの、意義が
ないなんて

自分の意志に反する状況を「仕方がない」と受け入れてしまうことは、もはや変えられない現実を認識していることを示しています。
それでも、自分の意志を押し通すことに対して反感を感じており、「割に合わない」と感じ、その行為に「意義がない」と考え始めている主人公。
これは夏油が闇に堕ちた原因と共通する要素であり、理想と現実のはざまで揺れる気持ちが想像されます。

明日は何処行こう

何処にでもあるようなものが
ここにしかないことに気づく
くだらない話でもよくて
赤らめた顔また見せて

普段の生活の中で、普通のように見えるものが、実際には非常に貴重で、他では見つけられないものであることに気づくことは、多くの場合、それを失ってからです。
友人との「くだらない話」や、誰かが恥ずかしがる「赤らめた顔」を見た瞬間が、どれもかけがえのない瞬間であったことを理解し、再びそのような関係に戻りたいと願っています。
しかし、一度進んでしまった道は戻れないという事実も受け入れなければなりません。

故に月は暗い 頭flight
今日は櫂を持って
探し物がない 揺れる愛
隠し持って生きる
故に月は暗い 頭flight
今日は何処も行けず
眠る、眠る 新品の朝へ
孤独 under crying
めんどくさい 線引きのない
記憶は儚い
昨日にまるで用はない
故に月は暗い 歪むLight
明日は何処行こう

サビのラップパートは、周囲のキャラクターたちが夏油に語りかけているようなイメージで構成されています。
月の明るさが不足している夜は、ごく身近なものさえ見えないほどの深い闇を意味します。
“月は暗い” というフレーズは、誰しもが時折、心が暗く沈むような日があることを表現しているのかもしれません。

“櫂” は船を進めるオールを指し、そのような暗い気持ちの中でも前進しようとする決意を示唆しているように感じられました。
複雑にからみ合う疑念や悩みに対し、どの方向に進んで変わることができるのかが分からず、日々を過ごすこともあるでしょう。
それでも “揺れる愛” だけは他人に奪われないように守りながら生きているのは、人間らしい反応かもしれません。

時折、過去の記憶にしがみついてしまい、何も変わらないことに苛立つこともあるでしょう。
しかし、希望の光は涙に歪んでも、未来に向けて “明日は何処行こう” という展望を持つべきだというメッセージが含まれているように思えます。

同じ過ちを繰り返さないため

傷ついてる心がわかるのに
なぜ傷つけてしまうおんなじ跡
エゴといって一括りにしていた
僕とあなたの本当 透明に燃えて

この歌詞では、大切な人の心が他の誰かによって傷つけられていることを理解しつつも、自分自身も同じように他人を傷つけてしまっていることに対する自己嫌悪の感情が表れています。
“エゴ” と一般的にまとめていた思考の中で、実はそれぞれ異なる形で存在する “僕とあなたの本当” の感情が燃えていたことが示唆されています。

この歌詞は、誰もが一言で説明できない多様な感情を抱いていることを認識し、これまで相手の気持ちを誤解していたことに気づいた可能性があるように思えます。

変わりたくって変わらない気持ち
形だけ崩れてく
希望の手 離さない 君の幽霊と

自分の内面を変えることは、変わりたいという願望があっても難しいことがあります。
それでも、変化の可能性を捨てたくないと思っていることが考察できます。
“君の幽霊” という表現から、主人公の大切な人はもはや亡くなっているか、もう彼らのそばにはいない可能性があるでしょう。
しかし、いつかその人が差し伸べてくれた “希望の手” を手放さず、努力し続ける決意が表れているように思えます。

孤独から日々を数えたら
ひとつの涙に溺れてた
くだらないならいっそ壊して
歌の中で自由に生きるから

孤独になった瞬間から今までの思い出は、悲しみに包まれているようです。
こんな自分を「くだらない」と感じる場合、時には「全てを壊してしまいたい」とまで望むことがあります。
誰かがそれを実現してくれれば、どんな束縛もない「歌の中で自由に生きる」ことができるかもしれないと、辛い現実を表現しています。

何処にでもあるようなものが
ここにしかないことに気づく
くだらない静けさの夜また
記憶に住む僕だけ目覚める
ここにしかない
君に触れたい
くだらない話でもよくて
赤らめた顔また見せて

大切な日々を振り返り、今まで見過ごしていたものの素晴らしさについに気づいた主人公。
過去の思い出に頼り、もう手に入らないものを求めているかのように感じます。
彼らはまるで「記憶の中に住んでいる」かのようです。
幸せな瞬間から目を覚ますと、孤独な現実が目の前に現れます。
その中で主人公の心に残るのは、「ここにしかない君に触れたい」という思いだけです。どんな些細な会話や表情も、もっと大切にして触れていれば良かったという後悔の気持ちが伝わってきます。そして、深い後悔から、同じ過ちを繰り返さないために “燈” を目指して前進しようという覚悟を固めている曲と解釈できます。

誰もが抱える悩みに優しく寄り添ってくれる

『燈』はアニメの物語と、私たちが抱える後悔という普遍的なテーマを、崎山蒼志ならではの独自の言葉で繊細に表現した楽曲です。
各シーンを通じてキャラクターたちの感情を読み取り、作品の世界に深く没入できるでしょう。
感動的な歌声が伝える大切なメッセージは、きっと誰もが抱える悩みに優しく寄り添ってくれることでしょう。