音楽ユニット「Wurts(ワーツ)」は、その独特な歌詞表現とジャンルにとらわれないサウンドで多くのファンを惹きつけています。なかでも「オブリビエイト」という楽曲は、キャッチーなメロディと共にどこかノスタルジックで切ない感情を喚起させる楽曲です。
この記事では、「オブリビエイト」の歌詞に込められた意味や象徴表現、タイトルの由来などを深掘りしながら、Wurtsらしい世界観の魅力を探っていきます。
「オブリビエイト」というタイトルの意味と由来
「オブリビエイト(Obliviate)」という単語は、英語の “oblivion(忘却)” や “obliterate(消し去る)” に由来する造語的な表現と考えられます。さらに有名な例では、ハリー・ポッターシリーズに登場する記憶消去呪文として「Obliviate」が使われており、「記憶を消す」「忘れさせる」というニュアンスが強い言葉です。
Wurtsがこのタイトルを選んだ背景には、「過去の自分」や「痛みの記憶」を消し去りたいという衝動、あるいはそのような願望への皮肉が込められているように思えます。この言葉が持つ響き自体も、やや空虚で不安定なイメージを醸し出しており、曲の持つ雰囲気にぴったりとフィットしています。
歌詞全文:重要なフレーズとその象徴表現を読み解く
歌詞には一見すると意味が掴みにくい比喩や象徴が多用されています。たとえば、
- 「炭酸が抜けたみたいな日々」
- 「奥歯は死角」
- 「牙をむく」
- 「ツルピカな世界」
これらの表現は、若者特有の感情や日常に対する倦怠感、社会とのズレを言葉遊びのようなスタイルで表現しています。
「炭酸が抜けた日々」は、刺激がなく退屈な毎日を象徴し、「奥歯は死角」は、他人や社会から見えない自分の本心や痛みを隠している様子を連想させます。「牙をむく」というフレーズは、反抗や自己主張を象徴する表現であり、世間に対する挑戦的な姿勢が感じられます。
これらのフレーズはただの言葉遊びではなく、感情の断片や心の叫びを、聴き手の想像力に委ねる形で訴えているのです。
若さ・成長・自己表現:歌詞に込められたテーマとは?
全体を通して見えるのは、「若さ」に伴う葛藤と模索です。自分をどう表現すればよいのか、自分とは何かという問いかけ、そして周囲との温度差や理解されないことへの苛立ち。
たとえば、「牙をむく」という表現には、何かを守るためではなく、純粋に“叫び”としての自己表現が見られます。大人になっていく過程で「丸くなっていく」ことに対する拒絶や、無理に社会に合わせることへの反発心が、比喩的に描かれています。
それと同時に、どこかで“分かってほしい”という切実な願いも感じられ、そこにこの曲のエモーショナルな魅力が宿っています。
日常と非日常の狭間で:比喩や描写から見える心の葛藤
Wurtsの「オブリビエイト」は、明確なストーリーを追うというよりも、断片的な感情の風景を描いたような構成になっています。これは日常の中にある非日常、つまり「いつも通りなのに、なぜか不安定」「普通だけど違和感がある」という感覚を巧みに表しています。
日常生活のルーティン、友達との会話、SNSでのつながりなど、平凡でリアルな情景の中に突然現れる“異質”な描写が、聴き手に不思議な違和感を残し、それが深く印象に残る理由の一つです。
このように、歌詞が描き出す心の風景は、「普通の中に潜む不安」「変わりたいけど変われない焦り」など、現代の若者が抱える精神的なグラデーションを浮き彫りにしています。
聴き手に問いかけるもの:この曲が与える感情・メッセージ
最終的に、「オブリビエイト」は“答え”を提示する楽曲ではなく、むしろ“問いかける”楽曲です。
- 今の自分はこのままでいいのか?
- 本当の気持ちは、誰に伝えるべきか?
- 忘れたい過去とどう向き合うか?
こうした自問自答が自然と浮かび上がるような構成で、聴く人によって受け取り方が変わる、非常に多層的な楽曲になっています。
それが、Wurtsというアーティストの魅力でもあり、この楽曲が多くの人の共感を集めている理由です。
まとめ:この楽曲の本質は「曖昧さ」にある
「オブリビエイト」という楽曲は、明確なメッセージを押しつけるのではなく、言葉の選び方や構成、音の使い方によって“感情の輪郭”をあぶり出すような楽曲です。
その曖昧さこそが聴き手の想像を刺激し、自分の人生や気持ちと照らし合わせて「自分なりの意味」を見出す余白を与えてくれます。
Wurtsが描く「忘れたいもの」と「忘れたくないもの」の間にある揺らぎを、ぜひ歌詞とともに味わってみてください。