別れの歌のはずなのに、どこか中毒的で、何度も聴き返してしまう――
須田景凪(バルーン)の代表曲「シャルル」は、ボカロ版・セルフカバー版・多くの歌い手のカバーを通して、今や“現代の定番”と言っていいほど愛されている楽曲です。
しかし、歌詞をじっくり読むと、「これってただの失恋ソングじゃないよね?」と引っかかる人も多いはず。「さよならはあなたから言った」「笑い合ってさよなら」といったフレーズの裏には、どんな感情が隠れているのでしょうか。
この記事では、「須田景凪 シャルル 歌詞 意味」をキーワードに、楽曲の基本情報から歌詞全体のテーマ、印象的なフレーズの解説、タイトルやMVのモチーフまで、丁寧に考察していきます。
1. 『シャルル』の基本情報|須田景凪(バルーン)の代表曲と楽曲背景
「シャルル」は、ボカロP・バルーン(須田景凪)が2016年に発表した楽曲で、VOCALOID “v flower” をボーカルに用いたボカロ版が原点です。
その後、バルーン名義のフルアルバム『corridor』に収録され、同作にはボカロ版に加えて須田景凪本人によるセルフカバーもボーナストラックとして収録されています。
現在では、セルフカバー版・ライブ映像・「THE FIRST TAKE」での一発撮りバージョンなど、さまざまな形で発表されており、YouTube再生数は両バージョン合計で1億回を軽く超える代表曲となりました。
サウンド面では、軽快なリズムとポップさのあるメロディが特徴的ですが、公式にもテーマは「別れ」であると語られており、明るいトラックと内省的な歌詞とのギャップが強い印象を残します。
MVはイラストレーター/映像作家のアボガド6が手掛けた一枚絵のアニメーションで、画面端にぽつんと咲く花など、ミニマルなビジュアルが歌詞の世界観を補強する重要な要素になっています。
2. 歌詞全体の意味を考察|「さよなら」から始まる別れと空虚さ・再生のテーマ
歌は「さよならはあなたから言った」という印象的な一行で幕を開けます。
別れを切り出したのは「あなた」なのに、泣いてしまっているのは「僕」。ここには、フラれた側/フッた側という単純な構図では片付けられない複雑さがにじみます。
多くの考察サイトが指摘しているように、「シャルル」の根底にあるのは恋人同士の別れです。ただし、それは一方的な失恋ではなく、
- お互いに傷つけ合ってしまった関係
- 本音を隠してきた結果、行き場を失った感情
- 「もういいか」と、自分の感情さえも手放そうとする投げやりさ
といった、もっとドロッとした感情の終着点としての「さよなら」だと解釈できます。
サビで繰り返される「愛を謳って」「語って」「笑い合ってさよなら」といったフレーズには、
- 愛を高らかに歌い上げようとしても、どこか空回りしている
- 夜の闇(=不安や本音)を前に、言葉を重ねても結局分かり合えない
- 最後くらいは笑って別れようという、自己防衛的な強がり
といったニュアンスが重なります。
一方で、歌詞の中には「空っぽでいよう」「それでいつか深い青で満たしたなら」といった、再生や受容につながるようなイメージも見え隠れします。いったん心を空っぽにしてしまえば、いつか別の色で満たせるかもしれない――そんなわずかな希望が、ただのバッドエンドソングではない奥行きを与えているのです。
3. 重要フレーズごとの歌詞解説|主人公と「あなた」の関係性と揺れる感情
ここからは、特に印象的なフレーズをピックアップしながら、「須田景凪 シャルル 歌詞 意味」をもう少し具体的に掘り下げていきます。
(※公式歌詞全文は掲載できないため、お手元に歌詞カードや配信サイトを用意して読んでみてください。)
「さよならはあなたから言った」― 被害者にも加害者にもなり切れない“僕”
冒頭のこの一行は、立場のねじれを象徴しています。
「別れを告げたのはあなた、でも泣いているのは僕」という構図は、
- 「あなた」に振り回された被害者としての自己認識
- でも自分にも悪いところがあったと分かっている後ろめたさ
の狭間でゆらゆらしている状態とも読めます。
ネット上の解釈では、「どちらが悪いか」よりも、「どちらもちゃんと向き合えなかった関係」というニュアンスを汲む考察が多く見られます。
「笑い合ってさよなら」― 3つの別れ方の可能性
多くの考察記事が取り上げるのが、この「笑い合ってさよなら」というフレーズです。
ある解釈記事では、この言葉に少なくとも3つの読み方があると整理しています。
- 本当は喧嘩別れしたまま終わりたくなかったから、「理想の別れ方」としての願望
- もう相手を追いかけず、彼女のいない人生を歩む覚悟を決めた、その区切りとしての笑顔
- 二人で「この世」と笑い合って別れる、つまり死を連想させるラストシーン
実際の歌詞やMVのニュアンスからは、3つ目のような物騒な読み方をする人も一定数いますが、必ずしも自殺ソングだと断定する必要はありません。
ただ、「笑い」と「さよなら」が同居している不気味さは、別れという悲しさを、笑いで誤魔化さないと耐えられない心情をよく表していると言えるでしょう。
「空っぽでいよう」「今日だって互いのことを忘れていく」― 記憶と罪悪感
AメロやBメロには、「空っぽでいよう」「昨日のことも消してしまう」「今日だって互いのことを忘れていく」といった、記憶と忘却をめぐる言葉が並びます。
ここは、
- 思い出に縛られたくないから、あえて忘れようとしている
- でも忘れようとする行為そのものが、逆に相手の存在を強く意識させてしまう
という、矛盾した感情のループを表しているようにも読めます。
「空っぽでいよう」は冷たい決意のように見えて、その裏には「そうでもしないとやっていられない」という弱さが見え隠れします。
「騙し合うなんて馬鹿らしいよな」「僕らは変われない」― すれ違いの結末
終盤で印象的なのが、「きっとわかっていた」「騙し合うなんて馬鹿らしいよな」といったフレーズです。
ここからは、
- お互いに本音を隠して優しい嘘をつき続けてきた
- あるいは、浮気や不誠実さを互いに見ないフリをしてきた
といった“騙し合いの関係”だった可能性も示唆されます。
そのうえで、「僕らは変われない」と締めくくられていく流れは、関係を修復することよりも、終わらせることを選んだ二人の姿にも、未熟なままの自分を受け入れようとする諦観にも読める、非常に複雑な余韻を残します。
4. タイトル「シャルル」の意味とMVの花言葉|フランス人名とクロッカスが象徴するもの
歌詞中には一度も登場しないのに、楽曲タイトルとして強い印象を残す「シャルル」という名前。
複数の考察によると、シャルルはフランス語圏の男性名であり、「男」「男性」を象徴する名前として用いられているのではないか、と言われています。
これを踏まえると、
- 匿名の「僕」に具体的な“名前”を与えることで、物語性を強めている
- 日本語以外の名前をタイトルにすることで、現実の誰かと距離を置き、“寓話”として描いている
といった効果が考えられます。
さらに、MVの中で画面端に描かれている花は「クロッカス」だとされ、その花言葉が歌詞の世界観と深くリンクしているという指摘もあります。
白いクロッカスには、
- 「切望」
- 「青春の喜び」
- 「あなたを待っています」
- 「裏切らないで」
といった意味があるとも言われており、
- 相手をひたすら待ち続ける気持ち
- 若い恋の喜びと、その裏返しとしての裏切り・執着
といったキーワードが、歌詞の内容ときれいに重なってきます。
また、クロッカスと女性・スミラックスの悲恋を描いたギリシャ神話が、モチーフになっているのではないかという説もあります。叶わない恋の果てに二人が花へと姿を変える物語であり、「二人の行き着く先が人間ではなく“別の形”になる」という点で、「二人の果て」を歌うシャルルと響き合うという見方です。
タイトルの「シャルル」、MVのクロッカス、それぞれが直接歌詞を説明するのではなく、**物語の裏側にある“もう一段深い悲しみ”**を示す象徴として機能していると考えられます。
5. ボカロ版からセルフカバー、そしてカバー曲へ|広がり続ける『シャルル』の魅力と須田景凪の表現力
「シャルル」はまずバルーン名義のボカロ曲として発表され、その後、須田景凪名義のセルフカバー、ライブ映像、「THE FIRST TAKE」バージョン、さらにはAdo×キタニタツヤによる新アレンジ版など、さまざまな形で生まれ変わり続けています。
カラオケランキングでも上位常連となり、10代を中心に“歌い継がれるスタンダード”として定着しているのも特徴です。
面白いのは、バージョンによって歌詞の印象が変わって聞こえるところ。
- v flower が歌うボカロ版は、どこか中性的で、人間味から少し距離を置いた“物語の語り部”のような冷たさ
- 須田景凪本人が歌うセルフカバー版やライブ版は、息遣いや抑揚が強く、罪悪感や未練が生々しくにじみ出る
- Ado版のように他のボーカリストが歌うと、また別の人物の物語として立ち上がってくる
という具合に、「同じ歌詞なのに、誰がどう歌うかで物語の主役が変わる」タイプの楽曲だと言えます。
それは裏を返せば、歌詞の比喩や抽象表現が絶妙なバランスで書かれているからこそ。
具体的な設定を語り過ぎないから、
- 結婚前に別れた恋人のこと
- ごちゃごちゃした恋愛関係
- うまくいかなかった青春の人間関係
など、聴く人それぞれが自分の記憶を投影できるのです。
「須田景凪 シャルル 歌詞 意味」を一言でまとめるなら、
“うまく愛せなかった二人が、それでも自分なりの形で別れと向き合おうとする歌”
と言えるかもしれません。
明るいメロディ、毒を含んだ言葉、どこか救いも感じさせる終わり方――
その全部がごちゃ混ぜになった「シャルル」は、きっとこれからも、多くの人の“忘れたいのに忘れられない記憶”に寄り添い続けていくはずです。


