【風になる/つじあやの】歌詞の意味を考察、解釈する。

ジブリの作品の中で一風変わった作品として知られる『猫の恩返し』のテーマソングが、つじあやのさんの「風になる」です。
京都出身のシンガーソングライターが素晴らしい才能を発揮し、この曲は彼女の代表曲の一つとなりました。

なぜ『猫の恩返し』が他と異なるのでしょうか?
実は、この映画は『耳をすませば』という作品の一種の派生作品です。
前作の主人公である月島雫が執筆した小説が、『猫の恩返し』の物語の基盤となっています。
ジブリが製作したスピンオフ作品として、これが唯一の例となります。

主題歌「風になる」も発売日から考えると、映画のために特別に制作された楽曲と言えるでしょう。
しかし、実際に歌詞をよく見てみると、ほとんどが『耳をすませば』の要素を歌っているように思えます。
この点は、いつ聴いても共感されることでしょう。
歌詞をじっくりとご覧いただきましょう。

遠距離恋愛の状況

忘れないよすぐそばに 君がいるいつの日も
星空に輝いてる 涙揺れる明日も

たった一つの言葉 この胸に抱きしめて
君のため僕は今 春風に吹かれてる

2番の歌詞には、特に『耳をすませば』の雰囲気が感じられます。
この作品は、月島雫と天沢聖司という2人の中学生が恋におち、最終的にはイタリアと日本で遠距離恋愛をするという物語です。

同様に、『風になる』でも、「僕」と「君」という二人の存在には大きな物理的距離があることが表現されています。
特に、「たった一つの言葉~」というフレーズは、遠距離恋愛の状況を象徴しているのでしょう。
この歌詞は、遠く離れている関係性について深い感情を伝えており、その共通点が際立っています。

自転車は重要なシンボル

陽のあたる坂道を 自転車で駆けのぼる
君と誓った約束 乗せて行くよ

ララララ 口ずさむ くちびるを染めて行く
君と出会えた しあわせ 祈るように

『耳をすませば』において印象的なシーンの一つは、自転車が登場する場面です。
天沢聖司が自転車の荷台に月島雫を乗せていたように、『風になる』の歌詞でも「僕」が「君と誓った約束」を自転車に託している描写があります。
これは明らかに意図的な類似と言えるでしょう。

このような共通点は、作者が故意に繋げたものと思われます。
自転車は両作品で重要なシンボルとして機能し、感情や約束の重みを象徴しています。

思い出を振り返っている

忘れていた目を閉じて 取り戻せ恋のうた
青空に隠れている 手を伸ばしてもう一度

これまで触れていなかった部分ですが、この歌の興味深い点は、「僕」が過去の「君」との思い出を振り返っているということです。
歌詞全体を通して見ると、「忘れていた」という表現があります。
歌詞を詳しく検討すると、過去の終わった恋愛が今でも「僕」にとって大切な思い出として残っており、その中で「君」の幸福を願っていることが理解できます。

陽のあたる坂道を 自転車で駆けのぼる
君と失くした 想い出乗せて行くよ

ララララ 口ずさむ くちびるを染めて行く
君と見つけた しあわせ 花のように

そのため、サビの部分では過去の出来事が表現されており、「君」が「僕」のそばにいないという現実が強調されています。
「君と失くした想い出」というフレーズは、二人の関係が確定的に終了していることを示しています。

『耳をすませば』におけるロマンチックな恋の始まりは、雫が坂道を自転車で登る場面から始まります(その後、二人は自転車で坂を下る場面もあります)。
この自転車での登坂は、過去の恋愛との再会を象徴している可能性があります。
上り坂を力強く進む行為に、つじあやのさんが前向きな感情を込めていることは、楽曲のテンポや雰囲気からも伝わってきます。
そして、彼女が自転車と坂を象徴的に選んだことは、『耳をすませば』との関連性を示唆しています。

「猫の恩返し」の要素

それでは、『猫の恩返し』との関連要素は実は存在するのでしょうか。
『風になる』には、一つのキーワードが「忘れる」ということだと私は考えます。
この歌は、忘れていた過去と、忘れてほしくないという思いが描かれています。
そして、猫について言えば、彼らは一般的に忘れっぽい生き物とされています。

石黒由紀子のエッセイには、「猫は、うれしかったことしか覚えていない」という一節があります。
この言葉は、猫がうれしかったことだけを覚えているために、同じ失敗を繰り返すことがある、という獣医のコメントを反映しています。
猫はすぐに記憶を忘れてしまう生き物なのです。
彼らは過去を振り返ることなく、気ままで自由な生き様を持っています。

とはいえ、このような猫たちも、春が訪れると突然恋に落ちることがあります。
俳句でも「猫の恋」は春の季語として知られています。
寒々しい冬から春への移り変わりの中で、ため息が春風に変わり、「風になる」ようになります。
これはまさに猫の歌と言えるでしょう。
春の季節になって、これまで忘れていた恋を思い出すのです。
そして、その瞬間から猫は元気一杯になるのです。

『猫の恩返し』と『耳をすませば』、両方の要素を織り交ぜて描かれたのが、「風になる」なのです。
では、また次回お会いしましょう。