【金木犀/アイナ・ジ・エンド】歌詞の意味を考察、解釈する。

BiSHの振り付けを担当しながら、同時にフロントマンとしてヴォーカルを務めるアイナ・ジ・エンド。
彼女がソロアーティストとしてリリースした「金木犀」という楽曲について深堀りしてみましょう。
この曲に込められたアイナ・ジ・エンドの感情やメッセージについて、歌詞を通じて探ってみます。
BiSHとは異なる一面がこの楽曲に表れていることを考察します。

叶わない願いを断ち切ることができない

長所のない私です
まぐわいの後の一刻に
心躍らず夢から温度だけ
吸い取られてゆく まるで一人

楽曲の冒頭で、「長所のない私です」という自己評価が述べられます。
この一文は、曲全体の象徴であり、「私」の葛藤や苦悩を表現しています。
歌詞から推測するに、恋人ではない相手と一夜を共にした「私」。
その経験が心を躍らせることなく、ますます冷めていく様子が伝わってきます。
「まるで一人」という言葉には、「私」の寂しさが一層込められているように感じられます。
一人で感じる寂しさよりも、人の中で感じる寂しさの方が切実です。
そばにいるのに、「まるで一人」…その孤独さは何とも寂しく、胸が痛みます。
もしかしたら、「私」はこの人に対して、恋愛に似た感情を抱いているのかもしれません。
それゆえに、寂しさが募るのでしょう。
「長所のない私です」という自己評価を通じて、叶わない想いを受け入れようとしているのです。


身をよじる 朝になる
途切れますように

“身をよじる”という表現は、大切な人の近くで感じる寂しさに悩む「私」の苦悩を表しています。
どうしようもない思いに悶々とし、朝を迎えてしまいます。
“朝になる”という瞬間は、日常が変わらず続くことを象徴しているでしょう。
こういった感情が”途切れますように”と、「私」は切望しているのです。


金木犀 揺れる頃
あなたには言えない
甘い香りにすぅと溶けてく
染まる頬 脳裏に影 影

“金木犀 揺れる頃”というフレーズは、季節の変化を単に表現するものではありません。
金木犀にはいくつかの花言葉があり、その中でも代表的なのが「謙虚」です。
秋になると香り高い花を控えめに咲かせる金木犀から、”謙虚”という意味が派生しています。
“あなたには言えない”という思いを抱え込む「私」は、金木犀と自身を重ね合わせているのかもしれません。
そして最後の”脳裏に影 影”は、飲み込むしかない真の感情を指しているかもしれません。
影が二度繰り返されることで、断ち切れない感情や心の迷いが表現されています。


長所のない私です
築きあげた結び目を解く
何も聞こえず夢から温度だけ
切り離してゆく 今日も一人

再び象徴的な一文が登場しますが、この部分の歌詞は冒頭とは微妙に異なるニュアンスが感じられます。
冒頭では内面の葛藤を歌っていましたが、ここではもっと現実的です。
“まるで一人”と感じていた「私」が、”今日も一人”と断言しています。
これまで築いてきたものが崩れていくか、あるいは自らそれを壊しているかのようです。
自分だけが前進できないかのように、社会から取り残されたような気持ちが漂っています。


貪る目 眠れない
途切れますように

短いパートですが、どこか不安げな「私」の感情が伝わってきます。
“貪る目”という力強い表現からは、自身の行動や周囲の冷たい視線についての反省や自己認識がにじみ出ているように感じられます。
これらからの解放を望む「私」が、断ち切りたいと切望しているのが”途切れますように”というフレーズです。


金木犀 揺れる頃
あなたには逢えない
甘い香りに泳ぎ疲れて
密やかに浮かぶの影

この部分では、「あなた」という特定の対象が明示されています。
金木犀の香りが漂う季節に、その香りに包まれた幸せな瞬間を共有できない切なさから、「私」は「あなた」への思いを諦めることになります。
その甘美な香りに思いを重ね続けることに疲れてしまったのです。
思い=影だけが、切れた糸の凧のように、拠り所を失ってひらひらと彷徨い続けるのです。


この身ごと 捨て去って
構わないでよ

非常に明確で率直な言葉で、すべてを拒絶する「私」。
自分自身に対して自暴自棄になり、時には自らの命まで捨てる覚悟を抱いているかのように苦しんでいます。
他人には心の中に触れてほしくなく、”構わないでよ”と周囲から自分を遠ざけようとしています。
しかし、そういった感情に至るのは、心にまだ「あなた」への思いが残っているからでしょう。
まだ叶わない願いを断ち切ることができないため、苦しんでいるのです。

残るのは影=思いだけ

サビの終盤に登場する”影”は、おそらく”あなた”への感情を指しているでしょう。
この感情は決して公には表せない、内に秘めた思いなので、”影”という表現がぴったりです。
自分の後ろについてくる影を、断ち切れない”あなた”への思いになぞらえて表現されているように感じられます。
最初のサビでは、未だに未練の残る思い=影でした。
しかし、二度目のサビでは、”あなた”を諦めたことにより、残るのは影=思いだけで、それが宙に浮かんでいるかのように、空中を舞っているように感じられます。
まるで、自分の抜け殻が水面に浮かぶかのように、空を舞っているかのようです。

自分に言い聞かせている

「長所のない私」という表現は、おそらく叶わなかった”あなた”への感情を受け入れるための言葉と捉えることができるでしょう。
自己評価を低くすることで、「だから、思いは叶わなかったんだ」と自分に言い聞かせているようです。
このような自問自答の中で、どうしても自分には誰かを想う資格がないのか、と言葉の裏で問いかけているのかもしれません。
興味深いことに、金木犀の花言葉には「初恋」も含まれています。
したがって、この楽曲は切ない思い出となった「初恋」を歌っている可能性も考えられます。

心の微妙な変化を繊細に表現

「金木犀」という楽曲の歌詞には、苦しみが美しく表現されており、アイナ・ジ・エンドの独自の世界観に引き込まれる方も多いことでしょう。
叶わぬ思いに悩みながらも、やがて諦めの境地に至る「私」に共感する人々もいることでしょう。
この歌詞では、謙虚な花である金木犀に自身を重ね、季節の変化とともに心の微妙な変化を繊細に表現しています。
アイナ・ジ・エンドのアーティストと、女性としての彼女の魅力に圧倒されます。
その多彩な才能に心を奪われた人々も多いことでしょう。
また、この曲が後世に残る名曲として語り継がれる瞬間に立ち会っているかもしれません。
ぜひ、歌詞にも注意深く耳を傾けて楽しんでみてください。