遅くなってしまいましたが、漫画『約束のネバーランド』についての感想をお伝えしたいと思います。
連載は既に完結しており、最終巻も出版されています。
そのため、すでに結末を知っている方も多いかもしれません。
私も実写化やアニメの第2期がスタートしたことをきっかけに、改めて全巻を読み返してみました。
連載当初、私は脱獄編に引き込まれて読み始めましたが、物語が進むにつれて細部の問題が浮き彫りになり、特にラストの4巻に関しては、物語を予定通りの幸せな結末に向かわせるための整理が行われたように感じました。
私にとって『約束のネバーランド』とは「脱獄編が際立って素晴らしかった」という印象が強いです。
海外ドラマっぽい構造
2016年に週刊少年ジャンプでの連載が始まり、2018年には「このマンガがすごい!」のオトコ編第1位を獲得するなど、『約束のネバーランド』は多くの注目を浴びました。
心理戦を主軸にしたサスペンス展開や、女性主人公というジャンプの王道を逸脱した設定などが、話題となり、魅力的なスピード感によってファンを引き込んでいきました。
私自身も、特に脱獄編で繰り広げられる洗練された心理戦に興奮し、単行本を次々と手に取って読み進めました。
物語は大きく6つの部分に分けられます。
まずは農園からの脱獄を描いた脱獄編、その後のオジサンとの出会いと旅立ちを描いたミネルヴァ探訪編、エマ達人間と鬼との壮絶な戦いを描いたゴールディ・ポンド編、その後の七つの壁の探索とシェルター襲撃、そしてノーマンとの再会を描いたアジト&七つの壁編、最終的な王都決戦とGFハウス帰還を描いた王都決戦&GFハウス帰還編です。
なお、この区分は最近発売された設定資料集である第0巻を基にしています。
私の最初の印象は、『約束のネバーランド』を読む際に海外ドラマ『プリズン・ブレイク』を思い出したことでした。
約十五年前の作品ですが、海外ドラマブームを牽引した大ヒット作品であり、多くの人々に覚えられていることでしょう。
『プリズン・ブレイク』も文字通りの脱獄サスペンスですが、無実の兄を救うために弟がわざと刑務所に入り、脱獄を試みるというリアルなサスペンスです。
一方で、キャラクターの設定や物語構造の違いにより、『約束のネバーランド』もまた海外ドラマの雰囲気を持っていると感じました。
海外ドラマと日本のドラマは異なるシーズン構成を持っており、1シーズンが通常2クール(約24話)で構成されることが一般的です。
日本のドラマとは異なり、海外ドラマは1シーズンで完結せず、視聴者の反応や要望を受けて、シーズン2やシーズン3と続けて制作されることがあります。
このため、クリフハンガーと呼ばれる続きを期待させる手法が頻繁に使われます。
海外ドラマはシーズンごとに物語が進展し、クリフハンガーが物語の展開を加速させる一方、視聴者を飽きさせない工夫がされています。
『約束のネバーランド』も同様にクリフハンガーが効果的に使用され、読者を引き込む要素となっています。
特に脱獄編では、驚きと緊張感が次々と織り交ぜられ、予測不可能な展開が物語を前進させています。
内通者の正体やキャラクター間の心理戦の繰り広げは、驚きと感情移入を同時に呼び起こす見事な演出です。
実際、第0巻で発表された情報によれば、作者は海外ドラマを参考にしたと言っており、その影響を受けて物語が構築されたことがうかがえます。
ただし、物語の後半では海外ドラマの特性が『約束のネバーランド』の展開に影響を及ぼすことがありました。
長期の連載によるキャラクターの登場や消失、急展開など、海外ドラマの特有の要素が物語の進行に一定の制約をもたらすこともありました。
この影響が後半になるにつれて顕著になり、キャラクターの複雑な心情や物語の整合性が欠ける部分も見受けられました。
特に登場人物の行動や動機が突然変わることがあり、物語全体の一貫性が損なわれることがありました。
まとめると、『約束のネバーランド』は海外ドラマの要素を巧みに取り入れた魅力的な作品であり、特に脱獄編でのテンポ感や心理戦の展開は見事でした。
しかしながら、後半においてはその影響が物語の一貫性に影を落とすこともあったと感じました。
作者の海外ドラマへの影響を感じつつも、独自の魅力を持つ作品として楽しむことができました。
キャラクターの魅力
『約束のネバーランド』には、非常に重要な役割を果たす3人の主要キャラクターが存在します。
それは、エマ、ノーマン、そしてレイです。
彼らはGF(グレイス・フィールド)出身であり、天才的な能力を持つフルスコア3人組です。
彼らのキャラクターは、それぞれの個性や思想によって際立っており、物語に深みを与えています。
エマの理想主義、レイの現実主義、そしてノーマンの複雑な感情。
この3人の関係性が脱獄編で見事に描かれており、物語のバランスが素晴らしい形で保たれていました。
特に脱獄編では、3人のキャラクターの成長と変化が見事に描かれています。
クールで合理的なレイが、エマとノーマンの影響を受けて脱獄計画に参加し、仲間たち全員(6歳以上)が脱獄に加わる展開は、キャラクター同士の絶妙な調和が感じられる素晴らしい瞬間です。
ノーマンの犠牲とエマの新たな冒険が物語を深化させ、読者を引き込む要素となっています。
このバランスのとれたキャラクター配置は、脱獄編の大きな魅力の一つであり、読者を魅了し続けました。
ママ・イザベラやシスター・クローネなど、他のキャラクターも物語に重要な役割を果たしています。
イザベラは育ての親であり、同時に敵としても登場し、彼女の天才的な存在感が物語を引き締めています。
また、ソンジュとムジカといった鬼の登場や、オジサンの不気味な存在もミネルヴァ探訪編で印象的に描かれました。
これらのキャラクターたちは物語の進行に重要な要素を提供し、展開に深みを与えています。
一方で、ゴールディ・ポンド編から物語が一部変化していく様子も見受けられます。
新たな登場人物が導入され、物語が進行するにつれてキャラクターの個性や差別化が薄れていく様子が描かれています。
特にバトル展開でのキャラクター同士の違いがほとんど感じられず、登場人物たちの心情や行動がやや単調になってしまったように思われます。
シェルター襲撃編やアジト編では、ユウゴやルーカス、ウィリアム・ミネルヴァを継いだ部下たちが活躍し、物語に新たな要素をもたらしています。
これによって物語がさらに広がりを見せており、読者の興味を引き続けています。
最終的な王都決戦編では、鬼側の勢力が登場し、物語がクライマックスに向かって展開しています。
レグラヴァリマ女王やギーランなど、新たなキャラクターが導入され、物語の緊張感が高まっています。
この部分では、鬼たちの個々の意思や行動が描かれ、物語に深みと奥行きが生まれています。
総括すると、『約束のネバーランド』は、主要キャラクターと共に、多彩な脇役たちも物語を豊かに彩っています。
特に脱獄編やミネルヴァ探訪編では、キャラクター同士の関係性や成長が見事に描かれ、読者を引き込む力がありました。
一方で一部の展開においてキャラクターの個性が薄れてしまう箇所もあるものの、全体としてはキャラクターたちの魅力が物語を支えていると言えます。
脱獄編がピークだった印象
『約束のネバーランド』を再読した際、なんとなくですが「進撃の巨人」に似た印象を感じました。
『進撃の巨人』も自由を求める主人公の物語でありながら、驚きの真実が明かされる展開があります。
巨人たちは実は人間であり、物語が進むにつれて世界の謎が解き明かされる過程が描かれます。
同様に『約ネバ』も、鬼にも鬼の世界があり、鬼たちの背景や生活が明らかになる展開がありました。
エマは鬼たちを救おうとする行動を起こし、人間と鬼の世界を分ける取り組みを成功させました。
『進撃』とは異なり、『約ネバ』は様々な問題を迅速に解決し、最終回へと向かうスピーディな展開が印象的でした。
結末まで読み終えて感じたのは、「エマに出会えてよかった」という感想でした。
白井先生自身も、キャラクターよりもストーリーに重点を置いていると認識しているようです。
一方で、各エピソードの終わりに引きをつけるスピーディな進行は巧みであり、物語全体の進行に一貫性があります。
しかし、もっとキャラクターたちに焦点を当て、彼らのバックストーリーや内面に深みを与えることができれば、さらに面白さが増すでしょう。
特に鬼のバックグラウンドや鬼の世界に関する情報、ノーマンの戦いや他の子どもたちの過去など、個別のキャラクターに多様な価値観を与えることができれば、物語は一層豊かになるでしょう。
登場人物たちが対面する際に、その過去やトラウマをただ話すだけでなく、より洗練された方法で描写することで、物語の深みが広がると思います。
また、話の進行順序を微調整することで、物語全体がさらに素晴らしいものになる可能性があると感じました。
すでに白井先生と出水先生による新しい読み切り作品も登場しており、今後の新連載にも期待が持てると思います。
個人の好みによって異なるかもしれませんが、私個人としては特に脱獄編がこの作品のピークであり、もっとキャラクターたちの掘り下げがあれば、より魅力的な作品になった可能性を感じます。