【The Strokes】アルバム「Is This It」の批評と解説。

ロックンロール・リバイバルの先駆けとなった作品

アメリカのロックシーンの変遷を追ってみると、80年代はLAメタルに代表される派手なハードロック・ヘヴィメタルの隆盛、90年代前半はその反動から内省的でダークな要素を内包したグランジ、90年代後半はKORNやリンプ・ビズキットに代表されるラップメタル・ニューメタル、またはグリーン・デイ、オフスプリング、ブリンク182といったメロコア・ポップパンクが全盛期を迎えていた。

2000年代に入ると様相はガラリと変わる。
ザ・ストロークスが発表したEP「ザ・モダン・エイジ」がイギリスで人気を爆発させ、1stアルバム「イズ・ディス・イット」は全世界を席巻。
「ザ・~」というバンド名は巷に溢れ、ザ・リバティーンズやザ・ホワイト・ストライプス、ザ・キラーズ、ザ・ヴァインズといったバンドが次々にブレイクを果たし、時代はロックンロール・リバイバル(ガレージロック・リバイバルとも)へと突入した。

音楽性のみならず、Tシャツにジャケット、細身のパンツにコンバースという組み合わせはファッションにも大きな影響を与え、若者のアイコンとなったザ・ストロークス。

今回はその1stアルバム「イズ・ディス・イット」がどういうアルバムだったのか考察してみたい。

時代に逆行したロウ・ファイサウンド

ストロークスのメンバーはジュリアン・カサブランカス(Vo)、アルバート・ハモンド・ジュニア(Gt)、ニック・ヴァレンシ(Gt)、ニコライ・フレイチュア(B)、ファブリツィオ・モレッティ(Dr)。
紆余曲折の末にニューヨークで「ザ・ストロークス」を結成した。
特筆すべきはギターのアルバート・ハモンド・ジュニアである。
父親は「It Never Rains in Southern California」のヒットで知られるアルバート・ハモンド。
なるべくしてミュージシャンになった、と言えるだろう。

ストロークスのサウンドはシンプルである。
キャリアを通じて余計なもののないタイトな編成だが、特にこの「イズ・ディス・イット」に関して言えばほぼドラムス、ベース、二本のギターとボーカルだけで構成されている。

モノトーンに一筋の赤を差し込んだジャケットのイメージが示すように、カラフルなサウンドではない。
埃っぽく、乾いた質感の音像がアルバム全編を通して収録されている。

ニューヨークで結成されたストロークスだが、このアルバムではヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ザ・ラモーンズ、テレヴィジョンといったニューヨークの先輩バンド達の影響を感じることが出来る。
くぐもった空気感はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの退廃的な空気感を確かに感じるし、シンプルに勢いのある楽曲はラモーンズの影響が伺える。
どちらがリードでどちらがリズムともつかない金属的な二本のギターの絡み合いはテレヴィジョンのサウンドを彷彿とさせる。
かと思えばメンバーへのインタビューによると直接的な影響はニルヴァーナから受けたとの事で、ニューヨークのバンドには意識していない部分でのサウンドの影響が自然と出てくるのかもしれない。

全編を通して歌詞の内容としては「虚無感」や「諦め」「迷い」またはそれに対する「一握りの情熱」のようなものが伺える。
斜に構え、競争や勝敗といったところから距離を置き、身近な出来事を題材に、しかし腐らずそれでもロックンロールに希望を見出している一人の若者―メインソングライターであるジュリアン・カサブランカス自身の事を歌っているのではないだろうか。

M1「Is This It」では「これなのか」という自問自答にも似たフレーズがサビを飾る。
新しいロックンロールの形は不安と迷いの中で生まれたものだったのではないだろうか。

M2「The Modern Age」はブレイクのきっかけともなった曲で、あっけらかんと、時に熱っぽく歌うジュリアンのボーカルと二本のギターの絡み合いが存分に堪能できる。
これぞザ・ストロークスという代名詞とも呼べる楽曲だと思う。

その他にもM5「Someday」やM7「Last Nite」、M8「Hard to Explain」といったシングルカット曲はもちろん、M4「Barely Legal」といった新世代の幕開けを飾るに相応しいロックンロールナンバーが収録されているのだが、M9「New York City Cops」は2001年9月11日に起こった「アメリカ同時多発テロ事件」の影響があり、ニューヨークの警察を揶揄していると取られかねないため、UK盤(日本国内盤も同様)に収録されていた「New York City Cops」はUS盤では「When It Started」に差し替えられている(また、女性の曲線美を表現したジャケット写真も性的であると差し替えられ、ステンドグラス調のジャケットに変更となった)。
この「When It Started」は、次作以降のストロークスに見られる「不思議なタイム感」を持った軽快なロックンロールであり、「楽曲としては2nd以降っぽいけどサウンドは完全に1st」という面白い楽曲となっている。

ザ・ストロークスの世界観とは

特筆すべきはアルバムの最後に収録されている「Take It or Leave It」である。
ストロークスのキャリアを通じて表現されているニヒリズム、自虐、敗者の美学が切迫感のあるサウンドに乗せて性急に奏でられている。

私はストロークスというバンドを特にストロークスたらしめている楽曲が各アルバムに数曲収められていると思っていて、特にその傾向はアルバムの一曲目と最後の曲、このアルバムにおいては「Is This It」と「Take It or Leave It」、2ndアルバム「ルーム・オン・ファイア」ではM1「What Ever Happened?」とM11「I Can’t Win」。
3rdアルバム「ファースト・インプレッションズ・オブ・アース」ではM1「You Only Live Once」がストロークスというバンドの美学をより強く表現しているのではないかと思っている。

「Take It or Leave It」だが、ニュアンスとしては「受け入れないのなら忘れてくれ」が近いのではないかと思う。
誰かに言われて何かを変える気はない、これが不満なら忘れてくれ、というストロークスの基本スタンスがこの楽曲を象徴している。

とらえどころのないバンドではあると思う。
飄々としていたかと思えばじめっとした情けなさも歌う。
冷めているのかと思えば熱がこもった叫びを放つ。
ダサいのかと思えばかっこよく思えてくる。
全ては首謀者であるジュリアン・カサブランカスの影響が強いと思われるが他のメンバーも一癖二癖の個性を持ち合わせていてまとまりがない。
が、5人が揃うと不思議と一体感のようなものが感じられ、デビューから今日に至るまでのバンドの不思議な魅力の要素ともなっている。

ロックンロール・リバイバルの始まりであり頂点

デビュー作品でブレイクし、下積みのない活動を始めたストロークス。

飄々とした態度や皮肉めいた歌詞の世界観から、あまり物事に固執せず、短期間の煌めきで活動を休止するのではないか、と私は思っていた。
他の多くの同世代バンド、ザ・ホワイト・ストライプスやザ・リバティーンズ、ザ・ヴァインズが一線を退いたのにも関わらず、ストロークスはメンバーの個人活動も含め安定した活動を続けている。
2020年には6thアルバム「ザ・ニュー・アブノーマル」をリリース。
唯一にして不変のジュリアンの歌声は健在で、2ndアルバム以降に見られるニューウェーブの要素を盛り込んだサウンドと、代名詞でもあるツインギターの絡み合いは今作でも十二分に発揮されている。

今日に至るまでの継続した活動の根源にあるのはメンバー全員の「音楽に対する探究心」に他ならない。
メンバーの多くが上流階級に生まれ、「音楽」という道を選ばなくとも充実した人生を歩む事ができたにも関わらず「ザ・ストロークス」というバンドを20年以上も続けているのはそれぞれのメンバーが持ち合わせている音楽に対する情熱が未だ冷めていない事を意味しているのではないだろうか。

出発点ともなったこの「Is This It」、未聴であれば是非一度聴いてみていただきたいアルバムの一つである。

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