凄腕のスパイと殺し屋、超能力者が仮初の家族を演じる、「SPY×FAMILY(スパイファミリー)」。
この設定だけでも面白いのだが、コメディとシリアスのバランスが絶妙で、非常に読みやすい作品となっている。
ほろりとさせられる人情派のエピソードもあれば、始終コメディに徹している回もあり、読者を飽きさせずに、魅力的な世界観が展開されている。
それに加えて、超能力者であるアーニャの、心が読めるという設定が物語のスパイスとなっていて、彼女の存在が私たちの予想を大きく裏切ってくれる。
物語のピンチも彼女の機転で回避される展開も多く、緊迫感のあるシーンに華を添えてくれる。
今回の7巻でも色々な登場人物のエピソードが語られる訳だが、表紙の通り、今回は主人公ロイドのターゲット、デズモンドの次男ダミアンにスポットライトが当たっている。
彼に焦点を当てて、7巻の批評と感想を語っていきたいと思う。
ダミアンについて
ダミアンについてふれたいと思う。
ダミアンは主人公である凄腕スパイ、ロイドのターゲットであるドノバン・デズモンドの次男。
偉い立場にある父親の権力を誇って、威張り散らしているガキ大将である。
父親に少しでも認めてもらえるように努力を惜しまない。
アーニャのことを気にしているような素振りを見せている。
子供っぽい性格だが、男気があるところもある。
勇気を出したダミアン(MISSION:38)
ついにロイドとデズモンドが対面を果たす。
物語の上でもターニングポイントとなる重要なシーンだ。
ここでは読者はデズモンドがどのような人物かということと、ダミアンが無事に父親であるデズモンドに話しかけられるのかに注目している。
デズモンドはアーニャがダミアンを殴った件でロイドから謝罪されるがそれを満面の笑みで子供同士の喧嘩だといって寛大な態度を取る。
ここで読者は意外な印象を受けるだろう。
戦争を企てているような危険人物が笑顔を浮かべるだなんて思いもよらない。
しかし、後半「人と人は結局永遠に分かり合えん」と冷酷な言葉を発する。
やはりこの男は不気味だと読者は認識するだろう。
この言葉に上手く切り返すロイド。
上手い具合にダミアンのことに話をつなげていく。
その後、ダミアンはデズモンドに用件を尋ねられ、引き下がろうとしてしまうが、アーニャに言われた赤点のテストでも父親に堂々と見せるという言葉に勇気をもらい、ダミアンは父親に中間試験で星を取ったこと、グリフォンの工作が金賞を取ったことなどを伝える。
デズモンドは「そうかよくやった」とダミアンを褒める。
ダミアンはその嬉しさを仲間たちと分かち合う。
デズモンドの不気味さが尾を引きながらも、私は父親に褒めてもらえたダミアンのことを思うと素直に嬉しくなってしまった。
親子の距離が縮まってよりよい関係になれば良いと期待する一方で、ダミアンが仲間たちと喜んでいる様子を冷たい目で見ているロイドにどこか不安を覚えたのだ。
そうそう物事は上手くはいかない。
まだこれから事件が起きるだろうということが安易に予測できる。
子供たちの無邪気な世界と大人たちの冷酷な駆け引きの世界という対比構造がはっきりと表現されていて、作品をより深みのあるものにしていると感じた。
自分を見つめなおすダミアン(MISSION:39)
ダミアンのクラスの担任であるヘンリーの計らいで、野外学習をすることになったダミアンと仲間たち。
ダミアンは最近、勉強のし過ぎで、疲れていた。
すべては父親にまた褒めてもらうため。
それを心配したヘンリーは彼を自然の中に連れていき、息抜きをさせようとする。
ヘンリーの思惑通り、大自然の中で思いっきりはしゃぎ、子供らしさを取り戻していくダミアン。
五感に身を任せてぼんやりすることは記憶や創造性に良いとされ、それを引率の教師から聞かされると、ダミアンは勉強ばかりの今の状況に疑問を持ち始めるのだった。
その後、大きな湖に、星が写り、まるで宇宙のような景色を見るダミアン。
その美しさに心奪われる。
野外学習は無駄ではなく、リフレッシュできたことを実感するのだった。
自然の描写がみずみずしく描かれ、それにはしゃぐダミアンたちの描写が実に丁寧に描かれている。
自然の中で羽を伸ばすことの大切さが伝わってくるエピソードだった。
それと同時に、大人たちの駆け引きに利用されずに、ずっとこのまま笑顔でいて欲しいとどこか寂しさも感じる後味だった。
アーニャの泣き顔にやられるダミアン(MISSION:42)
今回は完全にコメディ寄りで、笑える展開だったのでぜひ紹介したい。
食べれば頭が良くなると言われる幻のマカロンを巡って、ババ抜き対決が始まる。
アーニャは超能力で人の心を読み、ババ抜きで圧勝してしまう。
さすがに強すぎるということでもう一戦行うことに。
アーニャの弱点は顔にすぐ表情が出ることだった。
そのせいで、アーニャの元にババともう一枚カードが残ってしまった。
最後の二枚。
どちらかがババというところで、引くのはダミアンだった。
アーニャはここでテストの点数が悪かったら、クラス分けによって、ベッキーと別々のクラスになってしまう可能性があることを思い出し、思わず涙を流す。
その表情にやられたダミアンはわざとババを引くのだった。
ダミアンはやはりアーニャのことが気になって仕方ないのだ。
でも素直になれない年頃の少年らしさが存分に発揮されている。
そこがまた微笑ましい。
ババ抜きのシーンは笑えて、最後のダミアンの行動にキュンとくるエピソードだった。
オチだが、特に効果なしという笑える結果。
テストで撃沈したアーニャに対する皆の顔が最高なのでぜひ見て欲しい。
まとめ
「SPY×FAMILY」7巻の批評と感想をダミアンを中心に紹介した。
ダミアンの成長、アーニャへの思いなど微笑ましいエピソードが展開され、魅力的な巻だった。
ちらつく不穏な影や伏線など気になるポイントも多く、読者を楽しませてくれた。
関連 【ネタバレあり】漫画「SPY×FAMILY」8巻の批評と感想。
関連 【ネタバレあり】漫画「SPY×FAMILY」9巻の批評と感想。