「SPY×FAMILY(スパイファミリー)」は遠藤達哉さんによる漫画作品で、「少年シャンプ+」で2019年から連載を始めている。
2022年からはテレビアニメも始まり、2023年にはミュージカルが上演予定だ。
内容は秘密を抱えた仮初の家族が活躍するホームコメディー。
スパイ、殺し屋、超能力者の3人が織りなす、絶対に正体がばれてはいけないという状況下で起きるすれ違いが笑いを誘う。
今回は10巻の批評と感想について紹介したい。
今回の表紙は瓦礫の山を背に座り込む幼いころのロイド。
今までの表紙はすべて椅子にキャラクターが座っているというものだったが、今回は瓦礫が椅子代わりというのも考えさせられるものがある。
悲しいロイドの過去
10巻の最初にはロイドの過去のエピソードが描かれている。
舞台は西国東部の街ルーウェン。
幼いロイドは使われなくなった倉庫で友人たちと兵隊ごっこをやっていた。
ロイドは両親の不仲など、影を落とす部分はあるが、平和な時間を過ごしていた。
東国との戦争の話題は出てくるが、協定を結んでいるため、戦争は起こらないだろうと多くの人々は思っていた。
しかし、悲しいことにルーウェンは突然、東国の攻撃を受けてしまう。
親戚のところへ避難するため、瓦礫の山となった街を後にするロイド。
避難先でも東国の空襲が始まり、母親を失ってしまう。
父親は戻らず、母親も亡くなってしまったロイドは街中で泣きじゃくる。
このシーンは見覚えのある人も多いのではなかろうか。
1巻のロイドの独白で出てきたのと同じシーンだ。
今にも崩れ落ちそうな建物に、破壊された戦車。
そこでただ一人泣き続けるロイド。
ここで1巻でのロイドの「子どもが泣かない世界 それを作りたくてオレはスパイになったんだ」というセリフが生きてくる。
この記事を書く上で1巻を少し読み返したが、10巻でロイドの過去を知ってから、1巻を読み返すと、ロイドがなぜスパイをやっているのかがより明確になる。
過去と現在がつながっていく構成がわかりやすく、また過去エピソードが出てくるタイミングも良かったのではないかと思う。
家族の絆が深まり、ロイドにも感情移入できたタイミングでの過去エピソードは胸に来るものがあった。
アーニャとヘンダーソンのドタバタすれ違い
次に、アーニャとヘンダーソンのやりとりについて紹介したい。
相変わらずコメディー色が強く面白かった。
ヘンダーソンはアーニャのクラスの担当の教師だ。
エレガントであることを大切にしており、その段階で面白いのだが、そこに不思議ちゃんであるアーニャが加わるとさらに愉快な展開になる。
ヘンダーソンの荷物を運ぶ手伝いをするアーニャ。
ヘンダーソンと色々な話をするのだが、どこをとっても変なのだ。
アーニャの返事に対するヘンダーソンの心の中の叫びがとても笑える内容となっている。
ヘンダーソンに「なぜインペリアル・スカラーを目指すのか?」と尋ねられるアーニャ。
本当はロイドの任務のためなのだが、素直に答えるわけにもいかず、ひねり出した答えは「なんか かっこいいから」。
それに対してヘンダーソンは「浅っ!!!」と心の中で叫ぶのだ。
実際にここは本編をぜひとも見てもらいたい。
なぜかドヤ顔のアーニャの表情がより笑いに拍車をかける。
2人のずれた会話はぜひともまた見たいものだ。
このあとはずらっと並ぶ、歴代インペリアル・スカラーの写真を眺めながら、彼らのようになるにはたゆまぬ努力が大切だという話をするヘンダーソン。
その言葉に、ロイドの任務と一緒で、少しずつ頑張らないといけないのだという自覚が芽生えるアーニャ。
良い話で終わるのかと思いきや、茶菓子を食べて速攻帰るアーニャというオチがつく。
コメディーだけで終わらず、しめるところはしめる。
シリアスとコメディーのバランスがやはり心地よいものだった。
メリンダ・デズモンド登場
今回はヨルが主役のエピソードで物語のターニングポイントになりそうな重要な回だった。
ヨルはデパートに買い物に来ていたが、そこで荷物の持ち過ぎで足を滑らせた女性を持ち前の運動神経で助け出す。
ヨルはその俊敏な動きを買われ、ママさんバレーに誘われる。
皆とバレーボールやお茶を楽しむヨルだったが、助けた女性の名前に衝撃を受ける。
彼女の名は「メリンダ・デズモンド」なんとロイドの任務のターゲットである国家統一党総裁「ドノバン・デズモンド」の妻であり、アーニャと同じクラスの「ダミアン」の母親だったのだ。
まさかの「デズモンド」の名がここで出てくるとは、夢にも思わなかった。
メリンダが静かにカップを置いて、自己紹介するのだが何気ない動きすら何か意味があるのかと疑ってしまうほどに、読者は警戒するだろう。
ヨルは無事に帰れるのだろうか?
しかし、次のシーンではあっさり帰宅後のロイドとの会話に。
ロイド視点でのメリンダの紹介を改めてしておきたいという作者の狙いがあるのだろう。
「ドノバン・デズモンド」の妻という肩書がはっきりと紹介されることにより、改めて読者は物語の歯車が動き出したことを感じるのだ。
デパートでの出会いは本当に偶然だったのか?
ロイドでなくても疑問を抱いてしまうだろう。
メリンダの時折見せる表情も意味深だ。
ロイドが新たに「プランC・ママ友作戦」を打ち立てるが、物語に新しい軸が生まれたことで、今後の展開がよりスリリングなものになるのは間違いない。
まとめ
10巻はロイドの過去、メリンダとの出会いなど重要なエピソードが多かったように思う。
今回、記事を書く上で1巻を見返したが、10巻との共通点がちらほら見受けられた。
まず、冒頭の幼いロイドが兵隊ごっこをやっているシーンだ。
敵役の子供の後頭部におもちゃの銃をつきつけ、「ふり向いたら殺す」と言っている。
このセリフに聞き覚えがあるなと思い1巻を見返してみると、ロイドは敵のボスに対して同じように後頭部に銃を突きつけ、同じセリフを言っているのだ。
ロイドのスパイの原点はここにあるのかもしれない。
他にも、先ほど紹介したロイドが瓦礫の山を背に泣いているシーンが挙げられる。
探せば他にも出てくるかもしれない。
あと、10巻のおまけ漫画がかなり面白かった。
10巻で星1個、つまりはこのままのペースでは星を8個取るのに80巻になってしまう。
何かどんでん返しが起きることを期待する。
今後、「オペレーション〈梟〉(ストリクス)」はどうなっていくのか本編も気になるが、家族のドタバタコメディーも楽しみにしている。
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