諌山創氏による「進撃の巨人」の最終巻である34巻が2021年6月9日に発売され、11年半にも及ぶ長い歴史に幕が下ろされました。
今回はそんな一世を風靡した「進撃の巨人」の最終巻について書いていきます。
34巻の表紙にはまだ幼いエレン、ミカサ、アルミンの姿があります。
この表紙を見たとき、「ああ、終わってしまうんだな…」と実感しました。
まだ幼い3人から始まった物語。
なんだかすごく、遠いところまで来てしまったな、とも。
決して少なくはない犠牲、作中では多くの好きなキャラが次々と亡くなり、主人公とともに何度も絶望を味わいました。
こんなに心がふるえた漫画は生まれて初めてで、続きが気になり本屋で漫画を大人買いしたことを今でも鮮明に思い出せます。
平和ボケした現代に生まれたからこそ「進撃の巨人」という残酷に満ちた世界観が刺激的で、ワクワクしたのです。
本作はファンタジーでありながらも宗教や戦争など現実的な問題も多く出てくるため、主人公が世界を救ってハイ終わり、というわけにはいきません。
そこには当然“犠牲”が伴います。エレンが地ならしを起こしたことで、たくさんの罪のない人々が命を落としました。
この描写が非常にむごたらしく…。
人の命がどんなに重いものなのかを読み手に分からせるには十分でした。
現状に革命を起こすなら、ある程度の代償は必要でしょう。
だけど、本当にここまでの犠牲が必要だった…?
たくさんの人をむざむざ殺す必要が?
とエレンの行動に疑問を抱かずにはいられませんでした。
1巻でエレンの母親が巨人によって殺されてしまうシーンは私にとってトラウマであり、その瞬間に子供のエレンが巨人に感じた憎悪や殺意、駆逐してやるという感情を一読者である私自身も抱きました。
あの残酷で凄惨なシーン、人間の自尊心とか尊厳がいともたやすく蹂躙され、破壊されてしまう瞬間をエレンは心から憎んだはずなのに、最終的にあの巨人たちと同じことをしてしまった。
あの日の自分を、また作り出してしまったのです。
それだけはしてほしくなかった。
私はどうしても、それが許せないのです。
エレンの歴史は幕を下ろし、また次の世界が始まってゆく…。
決して綺麗なエンドではなかった。
“綺麗”という言葉なんかで終わらせてはいけない、ましてや美しいなんてあるわけがない。
たくさんの血が流れ、蹂躙された命たち。
その上に立っていることを決して忘れてはいけないのです。
同じことを繰り返さないためにも。
しかし、本作のラストにはまた次なる戦争についての描写がありました。
これが人間の愚かなところであり、一生消えることのない謎なのでしょう…。
ある意味現実的で、スッと腑に落ちたラストでした。
中途半端なハッピーエンドよりかはこちらのエンドの方が納得ができます。
私がハッとさせられたのは、ジークとアルミンの対話のシーンです。
生きる目的とは「増えること」だと淡々と述べるジーク。
それはそうなのですが、それじゃあまりにも合理的で機械的。
そこには人間としての“感情”がない。
そんなジークにアルミンは、夕暮れ時にエレンやミカサと3人でかけっこをしたそのありふれた瞬間こそ自分が生まれてきた意味だと。
そして雨の日に家で読書をしているとき、みんなと楽しく市場を歩いた時にもそう感じたのだ、と話すのです。
私は『ああ、これだな』と深く納得しました。
確かにジークの言うように、ただ増えるためだけに私たちは呼吸をし、今を生きているのかもしれません。
けれど、それではいやだ。
そんなのは人間の心や感情をないがしろにした言い分です。
そうではないんです。
アルミンの言うように、私たちには心があり“生きている”のだから、なんとなく“幸せ”だと感じたとき、“感情”が揺さぶられた時を生きている意味にしていい。
小難しい理由なんていらないんです。
ここでのアルミンに少なくとも私は救われ、真理を見たような気がしました。
主人公のエレンは巨人の力を手にし、最終的にはその身に重すぎる罪を背負い、命を落とします。
自由を追い求めていたエレンが最後まで巨人の力や運命に翻弄されていたのがただただ残念でならない…。
ただ、幸せに笑うエレンが見たかった…。
おまけページのスクールカーストについてですが、一見ジョークが入ったこの会話の中にも作者のさまざまな思いが詰まっているような気がしましたし、最後のエレンのセリフには思わずグッと来てしまいました。
余談ですが、シリアスな展開の中にも時々ギャグを挟んでくる作者のスタイルはシュールで好きでした。
「進撃の巨人」は終わったけれど、世界はまだ終わらない。
これからも存在する限り消えることはなく続いていく。
いつだって誰かの幸せの裏には誰かの不幸がある。
“生”には“死”がある。
それを忘れてはいけない。
大事なのは“今”をどう生きるか、なのだから。
私は「進撃の巨人」を読み、そこからたくさんのことを学びました。