「ランウェイで笑って」は週刊少年マガジンにて連載された作品で、パリコレを目指すモデルの藤戸千雪と、ファッションデザイナーとしての夢を追いかける都村育人の物語です。
この作品は、ファッション漫画としてはあまり見られないタイプで、その独自性から多くのファンを魅了し、さらにはアニメ化もされました。
物語はファッション業界の内部だけでなく、夢に向かって努力し、現実に立ち向かうキャラクターたちの輝かしい姿や、逆境に立ち向かう姿を描いており、非常に感動的なドラマが展開されます。
今回は、「ランウェイで笑って」の全巻を読んで感じた魅力について紹介します。
迷いながらも夢に向かって進む姿勢
ミルネージュというモデル事務所に所属する千雪は、身長不足がパリコレへの出場を妨げています。
一方、ファッションデザイナーへの夢を追い求める育人は、専門学校に進学するための費用を捻出できずにいます。
かつて、育人の夢を否定してしまった千雪は、自分の夢と育人の夢が連動していることに気付き、自分の夢の実現を証明するためにも、育人が夢を叶えることを願っています。
これらの二人は、異なる夢を抱えながらも、共通の障害に立ち向かっています。
このため、お互いの無謀な夢に対して信頼し合い、互いの努力がお互いに刺激を与える良好な関係を築いています。
異なる夢が交差する瞬間が、非常に感動的です。
しかし、夢の達成に向かう道のりは、多くの困難に立ち向かう必要があります。
特に、育人がファッションデザイナーへの夢を語る際、柳田の現実的なアドバイスが心に響きました。
育人が「服作りが好きだからデザイナーになりたい」と言った瞬間、柳田の言葉が非常に的確で、その現実味に触れることができました。
事情があろうがなかろうが一度諦められるような「好き」じゃこの業界続けていけねぇぞ
確実に好きじゃなくなる日がくる
その時デザイナーの頭に浮かぶのは野望か妥協か
好きの先に何か見つけねーと待ってるのは挫折だけだぞ
柳田は非常に厳格な性格で、育人に対して過酷な訓練を施しました。
育人自身の強い意志もあり、彼は柳田の厳しい言葉にもしっかりと反抗できる存在でした。
特に第6巻では、母親が入院し、医療費が必要になり、育人は夢を諦めずにアルバイトで忙しい日々を送りながらも、デザイナーへの夢を追求し続けています。
しかし、育人のパタンナーである綾野遠から、「育人はデザイナーとしては平凡以下だ」と言われる場面が登場し、その瞬間に夢が打ち砕かれるような絶望感が伝わりました。
また、心もモデルの資質を持ちながらも、デザイナーを志しています。
しかし、マネージャーに「モデルをやりたくないフリをしてデザイナーに憧れているだけだ」と指摘され、心は深く落ち込みます。
自分が本当にデザイナーになりたいのか、モデルを辞めたいからなのか自分でも分からなくなり、しかし、育人のデザインへの情熱が心の中で確かなものとして残り、デザイナーへの夢が確固たるものとなります。
その後、心はインターンなどを通じて成長し、腕を磨いていきます。
心が長谷川遠から正式に働かないかと誘われ、その誘いを断る場面での言葉も、彼女らしいもので、印象的です。
追い込まれた方が伸びる人間もいる
たしかに辛い時の方が成長できてる
でも 最後は幸せな場所を選びたい
じゃなきゃきっとこの道を選んだ意味がなくなっちゃうから
この経験はインターンだけでなく、モデルとしての夢とは異なる場所での経験が、心の成長に寄与した証です。
実際、モデルの道を離れた後でも、その経験が意味を持つ瞬間があったことを言えます。
自分の夢を叶えるために、あえて厳しい環境を選ぶことは、その夢に向かって進むために必要なことであることを感じました。
夢への追求は、厳しさも含めて成長に繋がるのだということが伝わります。
この物語の中心には「夢」があります。
夢を追い求めることの大切さ、夢を叶えるための忍耐力を教えてくれます。
夢に近づき、挫折し、立ち上がり、迷いながらも夢に向かって進む姿勢が、この作品の最も魅力的な要素だと思います。
オーラの描写も圧巻
この作品の画力は本当に素晴らしいです。
服や人物の比例感だけでなく、特に表情が非常に印象的です。
キャラクターたちの笑顔、涙、恥ずかしさ、怒り、そして緊迫した瞬間の迫力ある表情は、読者を引き込んでしまいます。
アニメでは原作のコマと見開きのコマが同じサイズに統一されることが多いですが、漫画ではシーンに応じてコマの大きさが変化するため、感情移入がより容易に感じられるのかもしれません。
さらに、この漫画はモデルたちのオーラも非常に忠実に表現されています。
モデルたちのオーラがぶつかり合う瞬間は、まさにバトル漫画のような迫力があります。
例えば、千雪とトップモデルのセイラが同じ服を着て、完全に異なるオーラを放つ見開きページは、見ごたえがあります。
さらに、世界一のモデルであるシャルのオーラの描写も圧巻で、アニメでもその表現を楽しみにしています。(なお、アニメではまだ描かれていないようですが)
美衣の視点
アニメの進行に従って、育人は高校を卒業し、日本のトップブランドAphro I diteでの職に就くことになります。
そこで出会うのが佐久間美衣という人物です。
彼女は父親がパトロン(Aphro I diteの支援者)であるため、周囲からはコネでの入社と見られ、疎まれることもありました。
美衣は17歳で靴のブランドを立ち上げるものの、失敗し、父親に「飽きたならちゃんと就職しなさい」と言われ、自分の努力を否定されたように感じ、一人涙を流します。
その後、コネでAphro I diteに入社しますが、コレクションでの失敗も経験します。
しかし、そんな経験から、「どうすれば〝頑張れる人〟になれるのか」を模索し、自身の持つ武器を最大限に活用しながら努力を重ねる美衣の姿は、夢を追い求める育人や千雪の姿とは異なる感動を私たちに提供してくれます。
コネ入社は一般的には否定的なイメージがありますが、この物語では美衣の視点からも苦悩や努力の一端が描かれており、読者に新鮮な視点を提供しています。
美衣は失敗を繰り返し、コネ入社による嫌われる状況に直面しながらも、前向きに取り組み、自分にできることを全力で実行しようとします。
その強い意志に感銘を受けました。
まとめ
この作品は、キャラクターたちの深掘りがしっかりと行われており、同時に彼らの表情も豊かで美しく描かれています。
この作品は、少年漫画の熱さとヒューマンドラマの感動が見事に組み合わさった、誰もが夢を追いたくなるような素晴らしい作品だと私は思います。
全22巻というボリュームもありつつも、読みやすくまとまっており、興味を持たれた方にはアニメからでも楽しむことができるでしょう。