映画「パラノーマル・アクティビティ」の批評と感想。

「パラノーマル・アクティビティ」を見た。
率直な感想としては、ホラー映画慣れした筆者には物足りなく思えた。

誰もいないのに勝手にドアが動いたり、足音が聞こえたり、といった前半は特につまらない。
後半、獣のような足跡がついていたり、主人公の女性が見えない何者かに引きずられたりした場面はそこそこ怖かったが、それでもやはり物足りない。
ラストシーンだけは衝撃的だが、ネタバレを先に見てしまっていたため、驚きはなかった。

全体を通して見ても、ゾッとするシーンは少なく、インパクトが弱い。
また、家庭用ビデオカメラで撮影したシーンだけなので飽きてくる。
これはPOVならではの弱点と言えよう。

だが、序盤でどうしてビデオカメラを設置するに至ったかの説明が自然にできていたのは、上手いと思った。

ホラー慣れしていない人が見たら、途中で飽きさえしなければ、結構怖いのではないだろうか、とも思った。

映画館や、真っ暗にした部屋で見ればなお一層怖さは増すだろう。

「パラノーマル・アクティビティ」は、2007年にアメリカで制作されたホラー映画だ。

今でこそPOV方式の映画は珍しくもないが、この映画はそのPOV方式のホラー映画の元祖ともいえ、火付け役にもなった作品だ。

このPOVという手法とラストの語りによって見事なフェイクドキュメンタリー映画になっている。

そのおかげで、作品にリアリティーが感じられ、まるで本当にあった出来事のようで、観る者にとってはより怖いと感じられるのだろう。

では、これがもしフェイクドキュメンタリーではなくPOV方式でもない、フィクションだとハッキリ分かるように作られた作品だったとしたら、どうだろう。
もしそうなら、ちっとも怖くないつまらない作品になっていたと思う。

何故なら、この映画は他のホラー映画のように恐ろしい幽霊やモンスターが姿を現すわけでもなく、人が血まみれになったりズタズタに切り裂かれるわけでもないからである。

ビデオカメラに映っているのは、見えない何者かによって引き起こされる超常現象の数々。
それを起こしている張本人は最後まで姿を現さない。

ホラー映画としては、見どころが足りないというか、華がないのだ。

だが、もしこれが現実で自分の身に起こったとしたら、どうだろう。

足音やドアが勝手に動くだけでも恐ろしいのに、足跡なんて残された日には、号泣してしまいそうである。

そう、もし現実なら、そんなちょっとしたことでも恐ろしいのだ。

我々現代人は、フィクションに慣れ親しみ過ぎてしまっている。
それゆえ、フィクションにはよりド派手な演出や衝撃的な展開を欲するようになっている。

だが、フィクションではなく現実ならば、ちょっとしたことでも身の毛がよだつほど恐ろしく感じる。
たとえば、この「パラノーマル・アクティビティ」がフィクション映画ではなく、実際に起こったことを記録した映像、いわゆ心霊動画だとしたら?

もしそうだとしたら、見たことを後悔しそうなほど怖いはずだ。
この世の中に、現実にそのような現象が存在するということは、自分の身に起こる可能性もあるからだ。

ここでお気づきの人もいるだろう。
そう、日本にはこの「パラノーマル・アクティビティ」をもっと短くしたような、数多くの「心霊ビデオ」が存在する。
その多くは作り物だが、あえてフィクションだとは謳っていない。
まるで本物のような体で売り出しているのである。

これらの作品は、作り物だと知っていても、「もしかしたら本物かも」と思わされる部分が多い。
視聴者は、あえて騙される。
本物だと思ったほうが面白い(怖い)からである。

ネットに溢れる実話系怪談もそうだ。

書き手はわざと本当の出来事のように書くし、読み手は創作だとわかっていても、もしかしたら事実かもしれないという望みを持って楽しむ。

「パラノーマル・アクティビティ」は、本来ならそれらのような「本物」を装った媒体で発表するべき作品だったのではないだろうか。

そう思ってしまうぐらい、映画としては地味で、華がなく、あまりに日常的過ぎる。
日常であってもおかしくない、有り得そうな「超常現象」なのである。

実際、人が見えない霊に足を引っ張られてベッドから引きずり下ろされる心霊動画は存在している。

Youtubeで検索すれば出てくる。
物が勝手に動くポルターガイスト現象も、世界各地で報告されている。
ウィジャボードだって、日本人なら「こっくりさん」として身近なものだろう。

実際にあるものをただ現実的な映像として映画にしても、フィクションとしては面白味に欠けるのは当然だ。
だったら最初からフィクションとは言わずにYoutubeにでもアップすれば面白かったのに、と思ってしまう。

だが、これは映画として売り出したからこそ、全米で大ヒットを記録したわけで、ただの素人動画として公開されていたらこうはならない。

でも正直言って、個人的には、これを二時間弱かけて見るなら、日本製の心霊動画シリーズでも見た方が楽しめそうだと思ってしまう。

この映画は、米国で大ヒットしたわりに日本では評価が低い。
日本の有名な映画レビューサイト「フィルマークス」では評価の平均が五点満点中2.8点となっている。

それは、日本人の多くが霊的なものの存在を深層心理で信じているせいではないだろうか。

日本の幽霊は仏教と密接な関係があり、仏教を信じるということは霊魂の存在をも信じるということになる。

また、先程も述べたように、日本では古くは心霊写真、現在では心霊動画をエンタメとして楽しむ文化があり、時にはテレビで特集番組が放映される。
「こっくりさん」も子供の頃にやったことのある人が多く、身近な存在である。

このように、「ちょっとした心霊現象」は日本人にとってはわりと身近なものなのだ。
それゆえ、「パラノーマル・アクティビティ」の映像を見ても、珍しくもなんともないと思えてしまうのではないだろうか。

だが、欧米人にとってはどうか。

「パラノーマル・アクティビティ」に出てくる「見えない何者か」の正体は、幽霊ではなく悪魔だということになっている。

悪魔というものは、日本人にはなじみがないが、キリスト教徒にとっては大変に恐ろしいものらしい。しかも、そうそう身近に存在してよいものではない。

このキリスト教圏の悪魔の恐ろしさというのは、大抵の日本人には理解ができないだろう。

だが、日本人の大半は霊的なものの存在を信じている。
実際、あるインターネット調査のアンケートでは、幽霊の存在を信じるか、という質問に、全体で57.4%が「はい」と回答し、半数を超える人が幽霊の存在を信じていることがわかっている。
また、女性の五人に一人は実際に心霊体験をしたことがあるそうだ。

要するに、幽霊は日本人にとって身近な存在なのである。
だから、ちょっとやそっとの出来事ではもう怖がらないのだ(もちろん、現実では別だが)。

その、ちょっとした超常現象を「悪魔の仕業だ」と言われたら、ますます怖く無くなってしまう。
悪魔なんて言われたら、日本にはいない、海外のお化けでしょう。
私達日本人には関係のない話。

そこでもう主人公に感情移入できなくなって、海の外の遠い国の知らない人のお話を見ている感じになってしまう。

これがこの映画が日本で評価が低い原因なのではないだろうか。

要するに、
①心霊現象の話や映像に慣れ親しみ過ぎていて、驚きがない。
②悪魔という存在に馴染みが無さすぎて怖さがわからない。
ということだ。

誰もいないはずの場所から足音や物音が聞こえる、ドアが勝手に動く、といった非常によく「ありがちな」心霊現象が起こる前半では、視聴者は「ただのよくある話でつまらない」と感じ、それらが悪魔の仕業だと判明する後半では、視聴者の気持ちは主人公に同調できず置いてけぼりになる。

とにかく日本人向けではないのだ。

だが、この映画は世界的に見て、POV方式のホラー映画の火付け役となった功績は大きく、歴史に名を残す名画と言ってもいいだろう。

それだけに、この映画を心底楽しめなかったことは非常に残念である。

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