『おじさまと猫』は猫のふくまるとその飼い主である神田を中心に物語が展開する猫漫画だ。
累計225万部を売り上げる大ヒット作品で、ふくまると神田の心温まるストーリーに癒される人も多いだろう。
物語はペットショップで売れ残ってしまった成猫のふくまると彼を飼うことにした神田の出会いから始まる。
ふくまると神田の絆が丁寧に描かれつつ、周りの人々へとフォーカスが当たっていく。
今回紹介する9巻では神田の息子の星鳴が森山のバンドに入るのかどうか結末が描かれ、物語の終盤では星鳴にトラウマを与えた九重が登場するなど、メインのストーリーが進んでいく。
その合間に、ふくまると神田の絆もしっかりと描かれているので読み応えのある巻だった。
今回、9巻を読んで改めて感じたのが、『おじさまと猫』は傷ついた人々が、ふくまると神田たちを通じて再び前を向くために、歩き出す物語であるということだ。
9巻ではふくまるを含め、登場人物たちが抱えている心の傷が繊細に描かれる。
彼らがふくまるたちと出会い、自分と向き合い、再び歩き出す。
この過程が実に丁寧に表現されており、読者の心を打つのだ。
登場人物たちの感情の動きに注目して、9巻の批評と感想を紹介していきたい。
ネタバレありなので注意してほしい。
神田とふくまるの心温まるふれあい
ふくまるはいきなり大勢の人間が神田家にやってきて、疲れてしまっていた。
神田の膝の上で一休みしようと、神田のもとへ向かうが、神田の膝の上にはジョフロワが拾ってきた子猫の姿が。
神田家には今、ジョフロワが拾ってきた5匹の子猫が居候中なのだった。
ふくまるは自分の居場所を求めて、家の中をさまようがどこにも居場所はない。
誰も自分を見てくれないと泣き出してしまうふくまるだったが、最終的には神田がふくまるを抱きしめるのだった。
そのシーンのセリフが印象的だったので紹介したい。
「だってふくまるは 私の一番なんだから」
「ふくまるもパパさんが一番にゃー!」
ふくまると神田のやりとりは直球で読者の心を鷲掴みにしてくる。
ふくまるはペットショップでお客さんに見向きもされずに孤独な日々を過ごしてきた経験があり、孤独に敏感だ。
そんなふくまるを迎え入れた神田もまた、奥さんを亡くし、家には一人で住んでいて寂しさを抱えている。
そんな2人が、偶然出会い、かけがえのない存在になっていく。
このシーンでは二人が固い絆で結ばれていることを表している。
2人の笑顔に読んでいるこちらも嬉しくなってしまうのだ。
「一番」という言葉も改めて考えてみると互いに大事な存在であることをシンプルに表した良い表現だと思った。
人間と猫なので言葉は通じないかもしれないが、心はしっかりと通じ合っているに違いない。
世界は自分次第
神田家からマリンを連れて自宅に帰ってきた日比野だったが、マリンを預かっていてくれた神田へのお礼をどうするかで悩んでしまう。
贈り物に対して日比野はあるトラウマを抱えていた。
彼の母親が物の価格でしか、価値を感じない人だったのだ。
その影響で、高額なものを送りたい、せめて、もらったものよりも、高額で返したいという思いが彼を支配する。
しかし、世の中にはお金に代えられないものがある。
そのことを日比野は神田から学んだのだ。
お礼として思いついたのが、神田を猫カフェに連れていくことだった。
猫に囲まれて喜ぶ神田をみて、高価なものを贈るのではなく、相手が心から喜ぶものを贈れて良かったと思う日比野。
そのあと、偶然同業者に会い、なぜ猫カフェにいるのかという話題になる。
日比野は一瞬、恥ずかしさから誤魔化そうとするが、自分に正直な神田のことが頭をよぎり、正直に猫が好きだから猫カフェに来たと話す。
そのことがきっかけで、相手も猫好きということがわかり、今度猫カフェに行こうと話が盛り上がったのだ。
母親に心が縛られていた日比野だったが、世界は自分次第だと、自分らしく生きていくことを決めた。
彼と神田を親しくさせたきっかけは猫のマリンであり、マリンがいなければ彼はずっと母親の呪いから解放されなかったであろう。
このエピソードの最後のコマでマリンを抱えて海辺に立つ日比野の表情はすがすがしいものだった。
心の傷を抱えた九重
9巻では神田の息子、星鳴の回想シーンで登場した九重が登場するエピソードがある。
回想シーンでは九重は神田に近づくためだけに、星鳴と友達のふりをしているという嫌な奴として描かれていた。
今回は九重サイドで当時の心境が描かれる。
九重の家は裕福ではなかった。
ピアノは本格的にやるとなると、講師代など莫大な費用がかかる。
そこで、神田にピアノを教えてもらおうと思い、神田の息子である星鳴に近づいたのだ。
九重には彼なりの理由があったというのがまず驚きだった。
私のなかでは星鳴りの心を傷つけた最低な人間だと思っていたからだ。
このエピソードでは、九重はたまたま入った猫カフェで臨時のバイトとして働く神田とばったり遭遇する。
そこで九重は神田に土下座をして謝るのだ。
星鳴を傷つけたこと、神田を騙したこと。
彼はずっと、神田たちを騙していたことに傷ついていたのだ。
そこで九重が家庭の事情が複雑だっただけで根は素直な良い子だとわかる。
ひょんなことから、神田と一緒に猫を保護しに行くことになるところで、9巻は終わっている。
星鳴と九重が和解してほしいというのが本音だが、込み入った事情なだけに一筋縄でいかなさそうだ。
神田とふくまるが間に入ってくれることを期待している。
まとめ
『おじさまと猫』9巻の批評と感想を紹介した。
9巻では心の傷を負った人々がふくまると神田たちを通して、癒され、前を向く物語が描かれる。
2人の絆が周りの人々に良い影響を与えているのだ。
気になるのが星鳴と九重の二人の関係性がどう描かれていくのかという点だ。
10巻で二人は再会するかもしれないし、それはまた今後の話かもしれない。
あと、9巻ではふくまるのお兄さんである「びゃこ」が登場していた。
優しいおじいさんに飼われており、幸せに暮らしている。
ふくまるの兄弟はあと何匹かいるので、今後も登場して、ふくまると再会するかもしれない。
ふくまるの縁が広がっていくのが楽しみだ。
関連 【ネタバレあり】漫画「おじさまと猫」8巻の批評と感想。