「おじさまと猫」の概要
「おじさまと猫」は桜井海の漫画作品で、「ガンガンpixiv」、「月刊少年ガンガン」にて連載中である。
内容はペットショップで売れ残っていた一歳になる成猫と心に傷を負った男性との出会いから始まる心温まるストーリーだ。
猫は飼い主となる神田によって、ふくまると名付けられ、のちに出会う人々のトラウマやコンプレックスなどの心の傷を癒していくことになる。
2021年1月からは実写ドラマ化もしており、話題の作品となっている。
ふくまるはつぶれた顔が特徴的なエキゾチックショートヘアの雄猫だ。
右の頬には大きなほくろがあり、お世辞にもかわいい猫とは言えない見た目をしている。
容姿がイマイチで、誰からも見向きもされない猫。
しかし、この猫を受け入れてくれる存在が現れたという設定に、私は深く感情移入してしまった。
多くの人がこの不憫なふくまるに共感して、物語を読み始めたのではないだろうか。
神田の不器用な愛情がふくまるを包み込んでくれる、優しい世界に癒しを感じるのだ。
今回はそんな「おじさまと猫」の8巻の批評と感想を述べていきたいと思う。
空子と星鳴
8巻では多くのキャラクターが登場するが、その中に神田の子どもたちがいる。
子どもたちの存在はこれまでの話で明言されていたが、8巻ではそのキャラクターが掘り下げられていく。
長女である空子は読者の予想を裏切るような外見をしている。
ボサボサの髪に眼鏡。
神田の娘ということでおしとやかな女性を勝手に想像していたので正直驚いた。
本当に神田の娘なのだろうかと神田の友人である日比野は疑っていたが、多くの読者は彼と同じ気持ちだっただろう。
しかし、眼鏡をはずしたその素顔はぱっちりとした目をしており、とてもかわいらしいものだった。
眼鏡の下は美女というのはお決まりの展開の1つだが、やはり気持ちが良いものだ。
空子の性格であるが、幼いころから他人の目を気にせず自由奔放。
虫が大好きで、新種の虫を見つけるために海外にまで行ってしまうほどである。
神田に似ていない。
最初、疑問に思ったが、すぐに解決する。
この自由奔放で無邪気な感じをどこかでみたことがあると思ったら、そう、神田の妻の鈴音だ。
内にこもりがちな神田の心の支えとなっていた鈴音は動物が大好きな無邪気な女性だった。
無邪気な性格と動物好きという点が娘の自由な生き方、虫好きにつながっていったのではないかと思う。
空子とは対照的に神田に似ているのが、息子の星鳴だ。
彼は、自由奔放な空子とは真逆で常に他人との比較の中で生きてきた。
天才である父とは比較され、他人からの評価に怯えている。
それに加えて、本文でも語られているが、神田も星鳴も臆病で、他人に深く入り込まれるのを恐れている。
神田はその温厚な人柄で多くの人間を虜にするが、一部の友人と家族にしか心を開かなかったと語られている。
星鳴の過去は悲惨なものだ。
幼少期、周りから天才の息子なのに無能だと蔑まれていた。
そんな時、1人だけ心の支えになってくれる友人がいた。
その友人の支えがあってピアノを続けられていたが、ある日、その友人が星鳴のことを神田に近づくための手段としかとらえていないことを知ってしまう。
そのショックから、星鳴は人間不信になり、ひねくれた性格になってしまった。
そんな星鳴が物語の中で、人の良い森山と関わることになるのだが、当然衝突する。
「森山は成功できない。なぜなら成功する人間は皆強欲だ。自分がのし上がるためならどんな手段でも使う」
星鳴の言葉に、今まで舞台に上がることにトラウマを抱えている神田のことを気遣っていた森山だったが、自分の本当の気持ちに気づく。
自分は神田とバンドを組みたい。
その思いを神田に伝えるべく、神田のもとへ急ごうとする森山とそれを阻止したい星鳴がドタバタコメディーを始めるのだが、そこが笑えるのでぜひ見て欲しい。
森山が神田に本題を言う直前に、焦った星鳴が森山のバンドに入ると宣言する。
さて、ここからどうなるか次巻の展開が楽しみだ。
1巻を振り返って
2022年2月現在、8巻まで出ているということもあり、久々に1巻を読み返してみた。
振り返って、感想を述べていきたい。
3巻のあとがきに書いてあったが、連載初期はTwitterでの連載だったことを考慮して、短めの4ページ構成だったが、現在は「ガンガンpixiv」、「月刊少年ガンガン」での連載ということで4ページにとらわれない長めのページ構成となっている。
そのため、やりとりの中心が神田とふくまるの日常だったものから、神田とふくまる以外の登場人物の物語が幅広く描かれている。
7巻ではジョフロワ、8巻では鈴音や空子、星鳴にフォーカスが当たっており、ふくまるとおじさまの日常もところどころ描かれてはいるが、やや寂しい印象を受けた。
全体の雰囲気についても若干の変化を感じる。
神田とふくまるの微笑ましい日常漫画から、人間の心の醜い部分も描く人間ドラマへとシフトチェンジしてきた印象が強い。
心の傷のせいで前に進めない人々を癒すふくまるたちという物語はうるっとくる展開も多いが、ギスギスした演出からのコミカルへの転調がやや早いような気がするのだ。
個人的にその間の感情の揺れ動きがもっとみたいという欲にかられてしまう。
しかし、これ以上展開を引きのばしたとしてもダラダラするだけでこのくらいメリハリがあった方が読みやすいのかもしれない。
そのさじ加減は難しいところだというのが正直な感想だ。
まとめ
8巻ということで、様々変化してきた部分もあるが、相変わらずふくまるはかわいく、私の心を癒してくれる存在には変わりない。
人間ドラマにシフトチェンジしてきた部分もあるが、読み応えがあり、考えさせられる部分も多い。
少なくなってしまった神田とふくまるの何気ない日常も、ミニ漫画が挟まっていることにより、バランスがとれているのかもしれない。
8巻の最後、星鳴と森山の今後の展開はどうなってしまうのか。
個人的に星鳴が人間って良い面もあるんだよということに気づいてくれると良いなと思う。
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