【ネタバレあり】漫画「おじさまと猫」10巻の批評と感想。

『おじさまと猫』は桜井海さんが描く漫画作品で、2017年に桜井さんのTwitterアカウントにて公開され、2019年より「月刊少年ガンガン」で連載中。
2021年にはテレビドラマ化もしている人気作だ。

ストーリーはペットショップで売れ残ってしまった成猫を一人の男性が買うところから始まる。
ふくまると名付けられた猫は心に傷を負った人々を癒していく。

10巻では、神田たちがゴミ屋敷に猫を保護しに行くところから始まる。
保護した猫を神田のうちで預かることになり、九重は再び神田にピアノを聞かせることになる。
そこでの九重のトラウマとの葛藤が非常に見どころなのでぜひ注目してほしい。
その後はふくまるが度重なるストレスで体調を崩したり、星鳴と森山のバンド周りの話などが展開されたりする。
そんな『おじさまと猫』10巻の批評と感想を紹介していきたい。

保護された猫と重なるふくまると神田の出会い

10巻の冒頭で神田と保護猫カフェの店長、九重はゴミ屋敷へ猫の救出に向かう。
そこで待っていたのはまさにゴミ屋敷と呼ぶにふさわしい、足の踏み場もないほどゴミ袋が大量に置かれた光景だった。
部屋を片し、猫の餌を置くと、おびえた様子の猫が一匹現れ、無事に保護することができた。
保護猫カフェの店長はぎっくり腰のため、神田の元で保護猫を預かることになる。

車で移動中、おびえる保護猫に「大丈夫」と言い続ける九重。
その様子はどこか1巻での神田とふくまるの出会いを思い起こさせる。
ふくまるも保護猫も孤独な日々を過ごし、人間の愛情が信じられない。
しかし、神田の優しさや同じ孤独に触れ、心を開いていく。
同じように、保護猫も九重の優しさに触れ心を開く。

ふくまるが初めて保護猫に出会ったとき、怯えて母親を求める保護猫の様子を見て、思わず自分と重ねたことだろう。
特にふくまるは「あのころの自分と同じだ」とは語らない。
セリフがないのだ。
ここで多くを語らず、保護猫を受け入れようとするふくまるに思わず、じんとくるのだ。

駆け巡る感情

無事に保護猫を神田家に連れてくることができた九重は、日比野とジョフロワにぜひピアノを弾いてほしいとせがまれる。
空子の「お父さんは私の教え子だって言ってたよ」の言葉に、2人は興味津々だったのだ。

紆余曲折あったが、九重は2人の前でピアノを弾くことになった。
蔑まれてきたトラウマを思い出し、手が震える九重だったが、傍にいてくれる保護猫や、神田や両親などの支えてくれる優しい人々のことを思い出し、ピアノを弾き始める。

しかし、現実は甘くはなかった。
鍵盤は重く、ペダルは狂い、まったくうまく弾けないのだ。
ここでは、九重の心理描写が描かれる。
やはり自分が傷つけてしまった星鳴のことが気になっていたようだ。
神田に会うために、星鳴の友達のふりをしていたという罪悪感が九重に襲い掛かる。
九重の心の中で星鳴が語りかける。
「重いじゃん 期待って…」
その言葉に九重はコンクールで勝つたびに大きくなっていく期待に押しつぶされていた自分を自覚する。
そして、支えてくれた人々の思いにこたえるためにも、全部背負ってピアノを弾くことを決意。
やっと、九重は心の底からピアノを弾くことができたのだ。
途中から現れた神田からもアンコールを望まれるほどだった。

このシーンは何度見返しても、心に響くものがある。
この感情が駆け巡る感覚は、多くの人が体験したことがあるではないだろうか?
一瞬の中で、感情がごちゃ混ぜになりが、なんとか自分なりの答えがでる。
ここは、頭で考えるのではなく、心で読むシーンだ。

私も幼いころピアノを習っていたこともあり、発表会では、走馬灯ではないが、感情がかけめぐり、家族のことピアノの先生のことなどが心に浮かんだのを思い出す。

音楽やスポーツなど全般に言えることかもしれないが、ピアノはどこか自分と向き合うトリガーなのかもしれない。

我慢していたふくまる

子猫が5匹、新たに保護猫が1匹とどんどん自分の居場所がなくなっていき、ストレスがたまっていたふくまる。
ついに体調を崩してしまう。

神田家には最初、猫はふくまる一匹だったが、ジョフロワが拾ってきた5匹の子猫が居候し、さらにまた保護猫が1匹増えた。
ふくまるはぶつくさ文句を言いながらも受け入れており、良い子だなあと思っていたが、ストレスが体に出てしまったようだ。

よく考えれば当然のことだ。
ただでさえ愛情に飢えていたふくまるが、他の猫に神田を奪われてストレスに感じないはずがない。
自分だけ我慢しなければいけない環境が続き、ふくまるはついに限界を迎えてしまったのだ。

病院での診察でふくまるはストレスで体調が悪化しているとわかり、保護猫を友人に預かってもらうことに。
また捨てられてしまうと怯える保護猫。
ふくまるはそれを阻止するためにご飯をたらふく食べ、元気に走り回り、自分はもう大丈夫とアピールするのだ。

「ふくまるの心は宇宙より広いにゃー!!」

ふくまるはやはり心優しい猫だ。
自分がペットショップで売れ残り、悲しい思いをしてきたため、他人の孤独に敏感だ。
保護猫にも体をよせて優しく寄り添っている。
1巻を読み返してみると、孤独な神田にも、寄り添うように体を寄せているのだ。
これがふくまるの最大の愛情表現なのだろう。
ふくまるの温かさに心打たれる読者も多いのではないだろうか。

まとめ

『おじさまと猫』10巻の批評と感想を紹介してきたが、やはりこの巻で一番心に残るのは九重のピアノを弾くシーンだろう。
周りからのプレッシャーもトラウマも背負っていく覚悟でピアノを弾く。
短い間の出来事だが、心の葛藤が凝縮されたとても心に響く名シーンだった。

10巻の終わりで、九重は勇気を出して星鳴に謝りに行く。
しかし、星鳴には拒絶されてしまう。
2人は和解することはできるのか。
もし和解できた場合、新たなバンドメンバーに九重が入るのかなど淡い期待がある。

続きが気になるところで10巻は終わってしまう。
11巻では元気になったふくまるの活躍を見たいところだ。

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