母親に見捨てられた兄妹たちが主題となった作品で、映画監督の是枝裕和氏が手掛けた作品があります。
この作品では、俳優の柳楽優弥氏がカンヌ映画祭において最年少受賞を達成しました。
この作品は、ドラマとドキュメンタリーの要素が巧みに融合されており、感動的なストーリーが描かれています。
あらすじ
父親が異なる四人の兄妹が母子家庭で暮らしている物語。
彼らはアパートを追い出されないよう、父親が海外赴任中で母親と息子だけの二人暮らしと偽って生活しています。
そのため、子供たちは学校にも通ったことがありません。
しかしその後、母親が新たな恋人を見つけてしまいます。
母親は兄妹に20万円を渡して姿を消し、子供たちは自力で生きていくことを決意します。
独自のアプローチ
家族に見捨てられ、周囲から存在を無視される兄妹たちの逞しい生き様を、ドキュメンタリータッチで描いた作品です。
この作品は、是枝裕和監督によって制作され、彼の名を広く知らしめるきっかけとなりました。
俳優の柳楽優弥氏は、カンヌ国際映画祭で史上最年少かつ日本人初の最優秀主演男優賞を受賞し、話題を巻き起こしました。
作品は、1988年に実際に発生した<巣鴨子供置き去り事件>を基にしていますが、心理描写などはフィクションです。
家族の構成も実際とは異なっています。
この作品は、非常に過酷で無情な内容を持っていますが、実際の事件を調べると、乳児の白骨化や長男の遊び友達による末娘の悲劇など、さらに胸を痛める出来事があったことがわかります。
当時の報道では、無責任な母親を非難する声が多かったが、是枝監督は「お兄ちゃんは優しかった」という子供たちの言葉に心を打たれたと語っています。
そこから、子供たちの成長を丁寧に一年かけて追いかけるスタイルで、ドキュメンタリーとドラマを融合させた作品が誕生しました。
是枝裕和らしい独自のアプローチが光る作品と言えます。
子供たちの自然な演技
物語の冒頭で、アパートに引っ越してきたYOUと長男の明(演じるのは柳楽優弥氏)の母子の姿が描かれます。
父親は仕事で単身赴任しており、二人暮らしとしてアパートの大家に挨拶をします。
最初は普通の母子に見えますが、引っ越し荷物の中の大きな二つのトランクを開けると、次男の茂(演じるのは木村飛影氏)と次女のゆき(演じるのは清水萌々子氏)が現れます。
更に夜になり、こっそりと家にやってきた長女の京子(演じるのは北浦愛氏)。
驚くべきことに、実は四人兄妹と母親の家庭だったのです。
YOUは特徴的な声と話し方で、子供たちに家のルールを説明し始めます。
「大きい声で騒がないこと」「外に出ないこと」「ベランダもダメだよ」と、しっかりと説明します。
子供たちはみんな嬉しそうに話を聞いています。
洗濯の担当は姉の京子、買い出しやその他のことは全て長男の明が担当することになっています。
前半の短いシーンでも、母親の無茶なルールの中で家族は幸せそうに過ごしています。
特に幼い茂とゆきの表情や動きは、まるで演技ではなく自然な素直さが感じられます。
彼らの反応が非常に魅力的で、演技力以上にその純真さに惹き込まれることでしょう。
是枝監督は子供たちの選択に関して、「演技よりも自然な反応を撮りたかった」という言葉を述べており、その意図が理解できます。
無責任な母親
率直に言うと、最初の段階では母親であるけい子がシングルマザーとして四人の子供を頑張って育てる、多少だらしない印象のように映りました。
『万引き家族』とは異なり、こちらの家族には確かな血のつながりがあるので、貧しくても家族間の信頼関係は揺るがないように思えました。
しかしその期待はあっという間に裏切られることになります。
「学校に行きたい」「いつ学校に行かせてくれるんだよ」と京子や明が母親に訴えるが、けい子は口ごもってはぐらかすばかりだ。
「学校なんてつまんないよ。行かなくたって成功した人はいるでしょ。父さんいないと、虐められるよ」と彼女は言い訳を続ける。
しまいには、「勝手にいなくなったお父さんが悪いんでしょ。私が幸せになっちゃいけないの?」と逆ギレし、好きな人ができたと明だけに告げて、部屋を出て行ってしまう。
まるでホームレス
20万円ほどのお金を残していってくれたので、当面の生活はなんとかしのげるかと思ったが、それでも家賃や光熱費を捻出しなければならない。
すぐに資金は底をついてしまう。
明は母の昔の男であるタクシー運転手(演じるのは木村祐一氏)やパチンコ店員(演じるのは遠藤憲一氏)を訪ね、お金を無心するが、小遣い程度しかもらえない。
最初は一カ月程度の外泊で家に戻ってきたけい子だが、次はクリスマスには帰るねと言って再び出ていき、その後帰ってくることはなかった。
残された妹や弟たちに不安を与えないように、全てを抱え込み、みんなの世話をする明の姿が頼もしくも、同時に痛ましい。
大切に食べているアポロチョコを握りしめ、クリスマスにも帰ってこない母親を兄と一緒に駅で待つ幼いゆきの姿。
カップ麺に冷えたご飯を入れて飢えをしのぐお調子者の茂の姿。
是枝裕和監督は、キアロスタミやケン・ローチのように、子役の演技に対して独自の手法を用いてリアルな表情や動きを引き出しました。
彼は子役に情報を与えたり、直接誘導することで演技の差を生み出しました。
このような情報提供は、映画の世界に没頭する際には邪魔になることもあるかもしれませんが、是枝監督の手法は成功を収めました。
明は家計をやりくりし、親切にしてくれるコンビニ店員から廃棄の食料を分けてもらい、母親からお年玉が届いたと嘘をついて、弟や妹にお年玉袋を渡します。
柳楽優弥が演じる明の強そうな目つきが、実は優しさに見える瞬間でもあります。
兄妹四人が家を出て公園で遊ぶだけなのに、彼らにとっては大冒険であり、一大レジャーなのです。
特に長男の明は素晴らしいですね。
ピアノを買おうと貯めていたお金を提供している長女の京子もとても健気です。
映画は中盤以降、電気や水が止まってしまい、彼らは薄汚れた服装で生活していく様子が描かれます。
彼らはスラム街の子供たちのように見えます。
まるでホームレスの小学生のような生活を送っています。
無知であることは罪である
明はみんなに頼られる存在であり、学校には行っていないものの、小学6年生から中学1年生になる年齢の子供です。
ゲーセンで友だちを作り、家を散らかしたまま友達を招いてゲームに興じたり、時には少年野球の試合に助っ人として参加したりして、子供らしい時間を楽しんでいます。
時折、弟や妹たちが勝手を言ったりすると、カッとなって声を荒げることもあります。
そのため、草野球に興じていた罰が当たったわけではないのですが、彼が試合から戻ってくると、ゆきが椅子から落ちて頭を打ってしまったという出来事が起こります。
驚いたことに、薬局から万引きした薬も効果がなく、ゆきは次第に冷たくなっていきます。
ゆきが椅子から落ちるシーンが必要だとは言いませんが、彼女が死んでしまう展開の描写には、少し唐突で無理があるように感じられ、現実味に欠ける点が残念です。
ただ、引っ越してきた頃よりも成長したゆきが、家を出る際には元のトランクケースに収まらなくなっているという事実には、言葉にできないような哀しさが伝わってきます。
そして、このタイミングで母親から「よろしくね。ママより♡」というメッセージと共に、生活費の現金書留が届くのです。
無知は罪とはよく言ったものです。
解釈は観客にゆだねられる
結局、途中から彼らの良き理解者となっていた女子中学生の紗希(演じるのは韓英恵氏)と一緒に、明はゆきが生前行きたがっていた羽田空港に向かいます。
ゆきの大好きなアポロチョコを大量に買って、「遠足にでも行くのかな〜。楽しそうだね」と最後まで調子のいいコンビニ店長(演じるのは平泉成氏)。
彼らに手を差し伸べてくれたバイト(演じるのはタテタカコ氏と加瀬亮氏)とは対照的です。
そして、ゆきの入ったトランクを羽田に埋め、残された兄妹たちの未来がまた始まります。
重苦しい物語の結末ですが、不思議なことにエンディングは明るく元気を感じさせるのです。
是枝裕和監督は本作で徹底的に客観性を追求しています。
無責任な母親に非があることは明らかですが、彼女を断罪するようなシーンは中盤から現れません。
全ては観客に委ねられるのです。
母親に対する評価は、現代社会の犠牲者だと考える寛容な人もいれば、そうでない人もいるでしょう。
このような放置は望ましくありませんが、それでもこんな母親でも、熱湯をかけたり叩いたりして子供を追いやるような悪魔のような親よりは、少しだけマシなのかもしれません。
高い評価を得るのも、柳楽優弥のカンヌ受賞も納得の作品ですが、観終わった後の気持ちは重々しいものになります。