【ネタバレあり】映画「イングロリアス・バスターズ」の批評と感想。

戦争映画と言えば、それがもたらす破壊や悲惨さを描いたものがほとんどです。
しかし中には、そうした定石に当てはまらない作品も存在しています。
そんな作品の一つが、映画「イングロリアス・バスターズ」。

今作が描くのは、第二次世界大戦下のナチス・ドイツとその占領下にあるフランスです。
そんな史実通りの背景の中で、「ありそうでなかった」事件が巻き起こります。

この記事では、そんな映画「イングロリアス・バスターズ」を実際に見た批評と、感想を書いていきたいと思います。

映画「イングロリアス・バスターズ」の作品概要

映画「イングロリアス・バスターズ」は、2009年に公開されたアメリカの戦争映画です。
監督は「キル・ビル」などで知られるクエンティン・タランティーノ。
主演はブラッド・ピットとクリストフ・ヴァルツ。
二人ともに怪演を見せつけ、物語の雰囲気を作り上げています。

今作は戦争映画の中でも、特殊な物語構成となっています。
それは、史実と虚構を見事に織り交ぜて物語を作り上げたということです。

今作に登場するドイツ兵を殺害して回る「バスターズ」には、実在のモデルがいるとされています。
しかし、ナチス・ドイツの終焉は映画館の爆発などではありません。

映画を見る前に、当時の歴史を勉強しなおしてから観賞するのも楽しいでしょう。

あらすじ

第二次世界大戦時、ナチス・ドイツの占領下にあるフランス。
農夫のラパディット一家は、ユダヤ人の一家を自宅の地下でかくまっていました。

ある日、ラパディットの元にナチス親衛隊のランダ大佐が訪れます。
彼はラパディットがユダヤ人を匿っていると考えていたのでした。
ラパディットはランダ大佐に屈し、ユダヤ一家がいる場所を教えてしまいます。

ランダ大佐が率いる部隊がユダヤ一家を射殺。
その中で、唯一長女のショシャナが逃げ出すことに成功しました。
ランダ大佐は走り去るショシャナに、別れの言葉を投げかけます。

それから数年が経過し、成長したショシャナは親戚から引き継いだ映画館を経営していました。
そんな彼女に、ドイツ兵の1人が心惹かれます。
そして彼の手引きにより、ナチス・ドイツが主催する映画会の会場として、ショシャナの映画館が選ばれることになりました。

ショシャナは映画館ごとナチス・ドイツを爆破する計画を立てます。
しかし、打倒ナチス・ドイツを考えていたのは彼女だけではなかったのです。

「史実ではない」戦争映画の快作~映画「イングロリアス・バスターズ」

現在世の中にある戦争映画のほとんどが、史実を元に制作されています。
史実を元にし、実在の人物を登場させることで、その戦争で何が起こったのがが、より分かりやすくなるからです。
そして、その点は今作も同じです。

今作「イングロリアス・バスターズ」の舞台は、ナチス・ドイツ占領下のフランス。
ホロコーストの波が押し寄せ、ユダヤ人たちは怯えていました。
そして、物語にはそんなナチスに連なる人物たちが登場しています。
ナチス総統のヒトラーや、その右腕であるゲッペルス。
勿論皆、実在の人物です。

また、タイトルになっている「バスターズ」は、ブラッド・ピット演じるアルド中尉が隊長を務める、特殊部隊の名前です。
任務はドイツ兵を殺すこと。
これだけ聞くと創作感溢れるものですが、同様の行動を起こしていた人物、もしくは部隊が実在していたようです。

つまり今作は、多くの戦争映画と同じように、忠実に史実を取り入れた作品と言えるでしょう。
しかしそれだけでは終わりません。
今作は史実に従っているようで従っていないのです。

タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」をご存じでしょうか。
この作品は有名なテート・ラビアンカ殺人事件を下敷きとしながら、「その事件が起きなかったら」と言う想像が、仕掛けとして用いられています。
そのため、事件の首謀者であるマンソンファミリーや被害者のシャロン・テートが登場しながらも、筋書きが現実と大きく異なっていくのです。

今作もまた、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」と似た仕掛けを持っています。
その仕掛けとは、第二次世界大戦とナチス・ドイツに関わる「ありそうでなかったこと」。
つまり、ナチス・ドイツの早期終焉と、それに伴う第二次世界大戦の早期終了です。

諸々難しい事情はありますが、大まかに見て第二次世界大戦が勃発するきっかけとなったのは、ナチス・ドイツの台頭にあると考えて間違いはないでしょう。
そして、第二次世界大戦が終わるきっかけになったのもまた、ドイツの降伏にあったのです。

作中には、アルド中尉率いるバスターズ(米国)と英国(つまり連合国側)が協力して、ナチス・ドイツの高官が集う映画館を爆破するという作戦が実行されます。
結果として、これは果たされることはありませんでしたが、もう1人のキーパーソンであるショシャナとその恋人によって、別の形で達成されることになります。

この映画館に揃っていたのは、ただのナチス高官などではありません。
党首であり総統であるヒトラーやゲッペルスなども顔を出していたのです。

ヒトラーは作中で、バスターズのメンバーによって射殺されます。
そして、その他の高官たちは、燃え盛る映画館から逃げ出すことができません。

ヒトラーと他の高官が死んでしまえば、ナチス・ドイツという政党を継続することは困難でしょう。
また、戦争を続けることもできるはずがありません。
つまり、ナチス・ドイツの終焉が訪れ、戦争の終結も早まったのです。
それをユダヤ人であるショシャナ(と黒人であるその恋人)が果たしたということは、ナチスにユダヤ人が勝利したということです。

戦争の悲惨さを後世に伝える。
それは確かに、戦争映画の役割の一つです。
しかし、そうした役割を担わない戦争映画があっても良いはずです。

今作「イングロリアス・バスターズ」は戦争映画の一つでありながら、娯楽的要素を多く含む快作だと言えるでしょう。

音楽が盛り上げる過激な復讐劇~映画「イングロリアス・バスターズ」感想~

筆者が初めて見たタランティーノ監督作品が、この「イングロリアス・バスターズ」でした。
ブラッド・ピットが好きだったこともあり、彼に惹かれ、映画館に足を運びました。
その時にはクエンティン・タランティーノの名前も知らず、何も気にしていなかった記憶があります。

そんな筆者の目の前に映し出されたのは、衝撃的なシーンの数々。
頭皮を削がれたり、額に卍を刻まれたりするドイツ兵。
目を逸らしたくなりながらも、なぜか見てしまう魅力にあふれた作品でした。

その日以来、タランティーノ監督作品が気になり、色々な作品に手を出すことになりました。

そしてこの度、かなりの年月を経て今作を再度観賞しました。
改めて気が付いたのは、その音楽の素晴らしさ。
ノリが良く、映画のシーンにピッタリと合っていて(それが残酷なシーンであっても)、気分を盛り上げてくれるのです。

そんな音楽の中で繰り広げられるのは、バスターズやショシャナたちが行う、ナチスに対する復讐劇。
描写はタランティーノらしく過激ではありますが、どことなく爽快さを伴うものでもあります。

また、今作はタランティーノの特徴である無駄話が控えめなものともなっています。
会話に気を取られて観賞のリズムが崩れることもありません。
筆者が今作をタランティーノ監督の入門編にしたように、これから同監督の映画に挑戦してみたい人に、おすすめしたい作品の一つです。

まとめ

第二次大戦時、ナチス・ドイツが起こしたホロコーストを主題とした映画、「イングロリアス・バスターズ」をご紹介してきました。

今作の内容だけ取り上げてみると、少し手を出しにくいものかもしれません。
しかし、その内容はタランティーノらしく、過激な描写と素晴らしい音楽に彩られています。
また、主演の2人の演技は、見る人を引き込む魅力に溢れています。

戦争映画だと敬遠せずに、ぜひ今作を見てみてください。
タランティーノ流戦争映画を楽しむことができるはずです。

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