2021年、テレビアニメ放送開始から20周年を迎えた漫画「ヒカルの碁」。
「ヒカルの碁」は「囲碁」という動きの少ないテーブルゲームを題材にしているにもかかわらず、白熱した勝負シーンと繊細な心理描写で読者を虜にする作品です。
最終巻となる23巻は、北斗杯と呼ばれる国際戦の結末やそれぞれの想い、また囲碁界の未来がたっぷり詰め込まれた一冊。
この記事では、そんな「ヒカルの碁」23巻の見どころや感想をお伝えします!
「ヒカルの碁」23巻の見どころやポイント
日本・中国・韓国の若手プロを対象とした国際戦「北斗杯」もいよいよ大詰め。
23巻では代表に選ばれたヒカル、アキラ、社が韓国選手と激闘します。
ヒカルVS高永夏の勝負がアツい
日本選手の大将に選ばれたヒカルは、通訳トラブルによって誤解が生じ確執があった韓国大将の高永夏と対決します。
両者「絶対に勝ちたい」という強い気持ちの中、勝負を始めるヒカルと高永夏。
前日に大将に選ばれた時は動揺していたヒカルですが、落ち着きを取り戻し堂々と戦う姿にたった一日で大きく成長したと感じました。
そしてこの勝負が行われた日は、奇しくも佐為が消えた日と全く同じ5月5日。
このことにヒカルが気づいているのかは定かではありませんが、5月5日はヒカルが成長するのに欠かせない日付なのかもしれません。
先に勝負を終えたアキラと社に見守られながら、ヒカルと高永夏の戦いは続きます。
負けたヒカルの涙
両者一歩も譲らない互角の勝負を繰り広げましたが、最後はヒカルが半目差で高永夏に敗れ、日本チームの最下位が決定しました。
「はは…ダメじゃん、俺って」と自嘲気味に笑うヒカルは、高永夏から「なぜ碁を打つのか」と聞かれ思わず答えに詰まります。
「遠い過去と、遠い未来をつなげるために」と答えたヒカルは、自分が何のために碁を打つのか、どうして高永夏に勝ちたかったのかを改めて思い出し、思わず涙が溢れました。
ヒカルは物語開始当初こそ負けるとよく半泣きになっていたものの、佐為が消えて以降は全く涙を流さなくなっていたので、久々の涙につい読み手側も心が締め付けられます。
ヒカルの言葉を受け「オレ達は皆そうだろう」と返す高永夏でしたが、これはアキラや社、対戦相手達の総意のようにも感じられました。
「ここで終わりじゃない」と声をかけるアキラのセリフから、ヒカルたちの碁がまだまだ続くことを感じ取れます。
「ヒカルの碁」23巻のラストは物足りない?
大勝負である北斗杯に破れて終わる「ヒカルの碁」は「最後が物足りない」「あれで終わり?」とラストに賛否両論ある作品です。
しかし、個人的には「ヒカルの碁の終わり方はあれでよかった」と思っています。
ここからは、エンディングに納得している理由やラストの考察をしていきましょう。
過去から現在、そして未来に繋がるエンディング
「ヒカルの碁」23巻は、北斗杯編のストーリーと、2本の番外編により構成されています。
そしてこの番外編こそ、北斗杯編の物足りなさを払拭し、未来に繋がる予感を読者に与えているのです。
番外編「藤原佐為VS塔矢アキラ」では、物語の始まりからカギとなっていた一戦を振り返りつつ、北斗杯後のアキラとヒカルが描かれます。
高永夏に破れた直後こそ気落ちしていたヒカルはすっかり闘志を取り戻し、また一回り強くなったように感じられました。
続くもう一つの番外編「庄司君っ!岡君っ!」では、ヒカルやアキラに憧れる若き院生・庄司と岡が登場し、かつてのヒカルたちのようにプロに憧れる姿が描かれます。
ヒカルたちの碁に刺激を受け、自分も強くなりたいと奮闘する新たな才能が既に誕生していたのです。
2つの番外編を通じてヒカルたちの過去、現在、未来が描かれ「これからの囲碁界は明るい」「ヒカルの碁は未来に繋がっている」ということが示唆されていると感じました。
ヒカルが打つから「ヒカルの碁」
番外編「庄司君っ!岡君っ!」では、ラスト4ページでヒカルとアキラが対局します。
そして庄司と岡に見守られながらヒカルが一手目を打ち、物語は完全に幕を閉じるのです。
この部分こそが「物足りない」と評される一番大きな理由であり、ライバルだったヒカルとアキラの勝敗は最後まで明らかにされません。
しかし、ヒカルにとって囲碁は「勝つこと」よりも「自分が打ち続けて佐為の碁を未来に繋げること」のほうが大切なのではないかと思います。
だから最後のページは勝って喜ぶヒカルではなく、これから勝負に挑む一手目を打ったヒカルが描かれたのではないでしょうか。
ヒカルが打ち続ける限り「ヒカルの碁」は続くということを意味付ける、派手ではないけれどよくまとまったラストだと思います。
「ヒカルの碁」23巻の感想まとめ
個人的には大満足だった「ヒカルの碁」の最終巻。
大勝利を収めて終わるわけではないため「物足りない」と感じる人もいるかもしれませんが、ヒカルがこれまでどのように碁に向き合ってきたかを丁寧に読み解けば、納得できるラストだと思います。
佐為の碁を代わりに打っていただけなのに、いつしかヒカルの碁として身につき、それがまた未来の誰かの碁へと繋がっていく…、このテンポのいいドラマ性こそ、「ヒカルの碁」の醍醐味です。