世の中にはギャグマンガと呼ばれるジャンルものがたくさんありますが、その中でも確固たる地位を築いているのが増田こうすけ先生の漫画「ギャグマンガ日和」です。
作品名からして清々しいギャグマンガなのですが、今回はこの漫画「ギャグマンガ日和」の批評と感想を述べていきたいと思います。
絶妙であり、一貫している安定の作画
漫画「ギャグマンガ日和」でまず触れておきたいのが、その作画です。
一般的に漫画家というと、絵のうまい人がなるものというイメージがあるかと思います。
実際に「漫画家をひとり思い浮かべてみてください」と言われたとき、漫画「ドラゴンボール」の鳥山明先生、漫画「SLAM DUNK」の井上雄彦先生、漫画「エマ」の森薫先生といった圧倒的な画力を持っている先生方を思い浮かべる方がほとんどでしょう。
そういった中で、漫画「ギャグマンガ日和」は絵のうまさとは無縁とも言える作品です。
ただ、だからといって壊滅的に下手というわけではありません。
下手なわけでもなく、かと言ってうまいわけでもない……有名な漫画家の先生方の中では異質な存在とも言えます。
真似すれば素人でも描けそうな雰囲気があるのに、真似しようと思っても絶対にできないのです。
とにかく絶妙で、それでいて作画が一貫して安定しています。
有名な漫画作品の中には、巻数が進むにつれて作画もうまくなっていくというものもあります。
要は、連載を続ける中で漫画家先生も上達していくわけです。
しかしながら、漫画「ギャグマンガ日和」では作画がうまくなることはありません。
多少の違いはあれど、最初から最後までほぼ同じクオリティーなのです。
そこから読んでも作画が同じだからこそ、いつ頃に描かれたものなのかがわからないというある意味では奇跡的な漫画作品とも言えるでしょう。
緩すぎる題字とあらすじ
漫画「ギャグマンガ日和」の題字は、基本的に作者の増田こうすけ先生が手掛けています。
また、その字が毎回毎回とても緩い感じで、ゆるゆるの世界観にばっちりハマっています。
指で書くこともあれば、筆を口にくわえて書くようなこともあるらしく、ときには増田こうすけ先生のお母様や担当が書くようなこともあるのだそうです。
こだわりがあるようでこだわりがないというこの緩さがなんともたまりません。
さらに、題字とあわせてチェックしておきたいのがあらすじです。
基本的に毎回、前巻のあらすじが載っているのですが、このあらすじが本編とはまったく関係がないのです。
あらすじという名の自由コーナーとも言えるスペースなのですが、これがまた毎回増田こうすけワールドが全開で癖になります。
このように本編とはまったく別のところで独立して楽しめるのも漫画「ギャグマンガ日和」の魅力になっていると言えるでしょう。
ふざけているようで実はすべてを知っているのではないかと思わせるストーリー
漫画「ギャグマンガ日和」では聖徳太子や松尾芭蕉、伊能忠敬などいわゆる歴史的偉人などをキャラクターとして起用しているストーリーも多いです。
聖徳太子と小野妹子がジャージを着ていたり、松尾芭蕉がメカを名乗ってみたり、伊能忠敬が宇宙人と交流していたりと普通に考えてあり得ない展開となっているのですが、よくよく考えてみると「もしかしたらあり得るのではないか……」という部分もあるのです。
例えば、漫画「ギャグマンガ日和」の中で松尾芭蕉は馬鹿っぽく情けないキャラクターとして描かれています。
一般的に歴史の教科書などで学ぶ松尾芭蕉というのは「有名な俳句をたくさん詠んだすごい人」という認識かと思いますが、実は一部では松尾芭蕉は俳句を呼んでいないときにはクズの変人だったという説もあるのです。
漫画「ギャグマンガ日和」の中での松尾芭蕉はクズとまでは言いませんが、人としての器は小さいですし、変人でしかありません。
また、伊能忠敬というのは日本中を歩き回って、日本地図を作り上げた偉人です。
ただ、冷静に考えてみるとあの時代に正確な日本地図を作り上げるというのは現実的に考えて、とてつもなく難しいことです。
もちろん、実際に伊能忠敬はそれをやり遂げたからこそ偉人となっているわけですが、「もしかしたら宇宙人か何かに正確な日本地図を教えてもらったのかも……」と思ってしまう方もいるでしょう。
まるでその考えを見透かしたかのように、増田こうすけは伊能忠敬が宇宙人から正確な日本地図を教えてもらうシーンを描いているのです。
全体的にゆるゆるでふざけているのに、冷静になって考えてみるとところどころ「これってあり得るのかも……」と思わせるような部分があり、増田こうすけ先生がすべての歴史から読者の心まですべてを知っているのではないか、把握しているのではないかとドキッとさせられるのです。
しかも、歴史上の人物のパロディがこれだけ多いのに、増田こうすけ先生自身は「別に歴史は好きでも嫌いでもない」というのですから余計にシュールです。
緩やかな狂気とまろやかな毒気
漫画「ギャグマンガ日和」はギャグマンガとして面白いのはもちろんですが、その中で緩やかな狂気を感じられます。
作者である増田こうすけ先生の頭の中はどうなっているのかと心配になる読者もいるはずです。
また、漫画「ギャグマンガ日和」に登場するキャラクターというのはその多くが卑屈で、他の漫画であれば絶対に主人公になれないようなものばかりです。
その上、そういったキャラクターが周囲から馬鹿にされるなどの理不尽な仕打ちを受けることでストーリーが展開していることも多く、作品として全体的に毒気が多く含まれています。
ただし、その毒気がまろやかなのです。
ガツンと来るようなきつい毒気ではなく、「ちょっと蚊に刺されたかな」くらいの毒気なのです。
だからこそ、辛辣なセリフや描写であってもすんなりと受け入れることができますし、嫌な感情を抱くことなく笑って終わることができます。
このあたりも本当に漫画「ギャグマンガ日和」ならではの絶妙な加減というか、増田こうすけ先生のセンスの賜物という感じです。
カバー裏まであの世界観が広がっている
漫画「ギャグマンガ日和」は1冊の中でも本当に細かなところにまで小ネタが散りばめられています。
唐突に余っているスクリーントーンを使うためのページがあるかと思えば、実はカバー裏にまで漫画「ギャグマンガ日和」の世界観が広がっているのです。
漫画のカバー裏というとあまり見ない方も多いでしょうし、めくっても漫画のタイトル名くらいしか記載されていないということもあります。
ただ、漫画「ギャグマンガ日和」はカバー裏にまでしっかりと細工がされているのです。
扉絵のような感じなのですが、そこには本編とまったく変わらないクオリティーの作画であのシュールな世界観が表現されています。
漫画「ギャグマンガ日和」のカバー裏の画像はインターネット上でもよくネタとして使われているので、めくってみたら「あ!これ見たことある!」というのも見つかるはずです。
このように独特の世界観でとことん楽しませてくれるのが漫画「ギャグマンガ日和」なのです。
この作品を生み出してくれた増田こうすけ先生には感謝しかありません。