【ネタバレなし】漫画「不能犯」の批評と感想。

「不能犯」という漫画は、2013年からグランドジャンプで連載されていた非常に人気のある作品です。
この作品は宮月新氏が原作、神崎裕也氏が作画を担当しており、その魅力や深い教訓について語りたいと思います。
ネタバレを避けながら、作品の素晴らしさについて触れていきます。


今回紹介する漫画は「不能犯」です。
タイトルに含まれる「犯」の文字からは、サスペンスやバイオレンスの要素が連想されるかもしれませんが、この漫画は実際にサスペンスジャンルに属しています。
同じジャンルの漫画として挙げると、「ブラッディマンデイ」や「僕だけがいない街」などが考えられます。

通常、サスペンスといえば殺人事件やテロなどが中心に描かれ、それに立ち向かうストーリーが一般的です。
しかし、「不能犯」はその王道から一線を画しており、独自のアプローチを取っています。
この漫画は、各話が1つの人間ドラマのように構成されており、登場人物の内面や醜い側面に焦点を当てています。
そのため、後味が悪いと感じる要素も含まれています。

後味が悪い点については後ほど詳しく触れますが、読み切り型でありながらスリリングでどんでん返しのあるストーリー展開が魅力の一つです。
読者は次々と繰り広げられる意外な展開に引き込まれ、ストーリーの面白味を存分に楽しむことができるでしょう。

以上のように、「不能犯」はサスペンスジャンルの漫画として、王道から逸脱した興味深い作品です。
後述する「不能犯」の魅力について、詳しく語っていきます。

奇抜さとユニークなプロットが魅力

本作の主人公、宇相吹正は、社会の闇で暗躍する殺し屋です。
しかし、彼の殺し方は他の殺し屋とは一線を画しており、非常に異例な方法を駆使して相手を排除します。
その方法は、相手に思い込みを増幅させ、その思念によって殺すというものです。
通常の常識では考えられない手法であるため、宇相吹の犯行は証明が難しく、彼は「不能犯」として知られ、堂々と殺しを遂行しています。

物語は、宇相吹がどのような殺しの依頼を受けるかから始まります。
彼のターゲットとなった人間は、その特異な方法によってどのような運命に繋がるのでしょうか?
また、殺しの依頼主たちの末路はどうなるのでしょうか?

この漫画は、人間の醜い一面を巧みに描写し、宇相吹がそれに関与することで様々な人間模様が生まれます。
思い込みの力が人間に与える影響についても、物語は深く考察しています。

人間の思い込みの力には実際に大きな影響があるとされ、有名な例として、首に切れないナイフを擦り、出血したと思い込ませる実験が挙げられます。
このような実験を踏まえ、漫画「不能犯」は思い込みの力を自在に操る殺し屋の存在を仮定し、その物語が展開されています。

漫画を読むと、一部の展開が非現実的であることに気づくこともありますが、それはエンターテインメント漫画の魅力の一部です。
この斬新な発想から生まれた「不能犯」は、その奇抜さとユニークなプロットが魅力であり、読者にとって素晴らしい体験を提供しています。

真面目に進むことが大切だという教訓

「不能犯」の物語は、主人公の宇相吹が殺しの依頼を受けることから始まります。
この漫画は、確かにその展開が後味の悪さを伴っています。
殺しの対象となる人物がその行動や過去から見ても悪辣で、その運命に一種の痛快感を感じる部分もあるでしょう。
しかし、この作品が特に興味深いのは、「殺しを依頼する人物もまた悪党である」という視点です。
殺しの依頼主たちにも悲劇が待ち受けており、まさに「悪対悪」の構図が描かれています。

この漫画の後味の悪さが最大の魅力と言えます。
実際の社会でも、どちらかが完全に悪いということはまれで、人々は相手を非難しながらも、自身が被害者であるかのように振る舞うことがあります。
このような複雑な人間関係とヒューマンドラマを描写し、どちらか一方だけの正義ではない現実を浮き彫りにしています。

確かに、どちらか一方の正義に立つストーリーはスッキリとした印象を残すことがありますが、それがご都合主義的で深みに欠けることもあります。
一方、「不能犯」では、ターゲットとなる人物も依頼主も主人公の宇相吹も、みんなが持つ醜い心や行動が強調されており、後味の悪さと同時に多角的な視点から物語を楽しむことができる、深い作品に仕上がっているのです。


「不能犯」は、依頼主やターゲットにも予想外の展開が待つという設定から、物語のラストで驚きの大どんでん返しを提供しています。
詳細はネタバレになってしまうので避けますが、依頼主とターゲットの関係に関して、思わぬ真実が明らかにされることがあります。
このような意外性が、読者を引き込み、ストーリーの秀逸さを感じさせます。

物語の中で、殺し屋に頼んで問題を解決しようとする人物たちには、ろくな結末が待っていないことが示唆されています。
他人を排除して自身が幸せを手に入れようとする考えは、通常は成り立たないことを物語が表現しています。
実際の社会でも、相手を傷つけて自分を上げようとする人々が存在しますが、そのような行動は問題を解決しないことが多いと指摘されています。

「不能犯」は殺し屋という設定の中で、闇や悪意を強調するのではなく、闇を受け入れつつも前向きに生きるメッセージが含まれているように感じます。
自分の人生に大きなどんでん返しが訪れないよう、真面目にポジティブな方向に向かって進むことが大切だという教訓が、物語の中に秘められています。

映画と漫画を一緒に

「不能犯」は、理想論ではなく、リアルな人間の複雑さを描いた作品で、読者に多くの考えさせる要素を持っています。
これが一方では読者に心の負担をかける一方で、人間の闇に焦点を当て、深い洞察を提供する漫画とも言えます。

さらに、この作品は2018年には実写映画化され、松坂桃李さんと沢尻エリカさんが主演として話題となりました。
そのため、映画と漫画を一緒に楽しむことができるでしょう。
物語内でのどんでん返しや深いテーマの探求が読者を引き込む要因となり、興味を持ってくれた方にはぜひ「不能犯」を読んでいただきたいと思います。