「駄菓子」と聞いて、何を想像するだろうか?
子供のころにお小遣いを握りしめて、駄菓子屋さんに行った思い出。
友達と一緒に駄菓子を食べた思い出。
プールに行く前に駄菓子屋で駄菓子を購入。
しかし、計算を間違えた思い出。
人によってそれは様々だろうが、何かしらのエピソードがある人は多いのではないだろうか。
今作「だがしかし」はそんなノスタルジーな思い出に浸ることができる作品だ。
「駄菓子」を通して、主人公ココノツの「将来への不安」、「仲間との絆」「恋愛」といった、青春が描かれているが、そのどれもがどこか共感できる内容となっている。
2回もアニメ化された「だがしかし」。
今作の批評と感想を紹介したいと思う。
ネタバレがあるので注意してほしい。
『だがしかし』の概要
『だがしかし』はコトヤマ氏による漫画作品で、「週刊少年サンデー」にて、2014年から2018年まで連載されていた。
単行本が全11巻。
内容は駄菓子がテーマのコメディーである。
駄菓子屋の家系に生まれたが、駄菓子屋を継ぎたくない主人公「鹿田ココノツ」。
彼には漫画家になるという夢があり、そのために「シカダ駄菓子」を継ぎたくなかったのだ。
そんな彼の前に、ある日突然謎の美少女、「枝垂ほたる」が現れる。
ほたるは有名なお菓子メーカー枝垂カンパニーの社長令嬢であった。
彼女がやってきた目的はココノツの父親「ヨウ」を枝垂カンパニーが作る駄菓子屋の店長に迎え入れることだった。
ココノツがシカダ駄菓子を継ぐことを条件に、その誘いを受け入れるヨウ。
そのため、ほたるは目的を達成するために、ココノツにシカダ駄菓子をつがせようとする。
ほたる自身も駄菓子が大好きで、毎回駄菓子のことを熱く語る。
ほたるの駄菓子愛はとどまることを知らず、ココノツの親友「遠藤豆(とう)」やその双子の妹「サヤ」をも巻き込んでいく。
思わず駄菓子を食べたくなる
今作の最大の特徴と言えるのが、タイトル通り、駄菓子の存在だ。
駄菓子がメインのため、紹介された駄菓子を自分も食べてみたくなるのだ。
『だがしかし』を読んで自分もこの駄菓子を食べてみたい!
と思い、購入した経験がある。
私が買ったのは、1巻の第16かし「ビンラムネ」で紹介されていた「ビンラムネ」で、モナカでできた瓶にラムネの粉が入っているという駄菓子だ。
モナカに入ったラムネの粉という点に惹かれ、思わず買って食べてみた。
ストローでラムネの粉を吸うのだが、加減がわからずに思いっきりむせてしまった。
作中でもココノツがむせていたのを思い出し、同じ体験ができて、妙に嬉しかったことを覚えている。
このように作中のキャラクターと同じ体験が、気軽にできることがこの作品の良い点の一つだと思う。
他にも個人的に笑えた駄菓子紹介が、1巻の第4かし「きなこ棒」で紹介されていた「きなこ棒」だ。
ほたる曰く、駄菓子の世界は戦場で、きなこ棒は砂漠の戦士だそうだ。
この時の「きなこ棒」を擬人化した顔が「きりっとした男前」で無駄にカッコ良いのでぜひ注目していただきたい。
「きなこ棒」は平和で穏やかなイメージがあったこともあり、そのギャップに私はツボにはまってしまい、しばらく笑っていた。
「なぜこんなところにこだわるのか?」というポイントでこだわりを見せてくるので、そのズレが笑いを誘ってくる。
キャラクター同士の魅力的なかけあい
『だがしかし』の魅力といえば、キャラクター同士の魅力的なかけあいだ。
第10かし「くるくるぼーセリー」では、ほたるとヨウのしょうもない連携プレイが笑えるので紹介したい。
プールにやってきたココノツとトウ。
そこには監視員をするヨウの姿があった。
シカダ駄菓子が儲からず経営がピンチのため、プールの監視員のバイトをしていたのだ。
その事情を知ってしまったココノツは今度から店番をすることを約束する。
その後、ヨウの手伝いをするほたるが登場。
ほたるの水着姿を見ることができてラッキーなココノツとトウ。
しかし、これはすべてほたるとヨウの作戦だったのだ。
不憫な父親の姿を見せ、店の手伝いをさせ、そこから駄菓子屋を継がせようとする作戦である。
まだ作戦は終わっていなかった。
休憩時間が終わり、プールに飛び込むココノツたち。
そこで彼はプールのそこでキラキラ光るものを発見する。
それは駄菓子の「くるくるぼーセリー」だった。
ここで駄菓子を食べさせ、やっぱり駄菓子って良いなと思わせるほたるたちの作戦だ。
しかし、プールは飲食禁止ということが発覚し、作戦は残念ながら失敗に終わる。
私はほたるとヨウたち本人はいたって真面目に考えているのだろうが、傍から見たらしょうもない作戦に笑いが止まらなかった。
しょうもない作戦に対して、ほたるたちがとてもカッコつけているところが良いのだ。
こうした魅力的なかけあいを多く見ることができるので、読んでいて、飽きが来ず、どんどんページを読み進めることができるのだ。
ココノツとサヤ。二人の恋愛事情
「恋愛」はエンターテイメント作品において、欠かせない要素の1つとなっている。
『だがしかし』でも例にもれず恋愛要素が丁寧に描かれている。
私が注目したのがココノツのサヤに対しての心情の変化だ。
初々しい2人の関係が繊細に描かれているのが特徴である。
サヤはココノツの幼馴染で、昔から彼のことが好きなようだ。
だが、序盤、ココノツはサヤには幼馴染という感情しか抱いていない。
しかし、その関係が徐々に変わっていく。
3巻の第42かし「ヨーグレット」にて、サヤは2人がまだ小学4年生のころに、タブレット型の駄菓子、ヨーグレットを使ってお医者さんごっこをしたことを思い出す。
ふとした拍子に転びそうになったサヤを抱きとめたココノツ。
2人は距離が近くなったことから赤面する。
そんな甘酸っぱい思い出が紹介されたあと、第55かし「なつまつり」にて、ココノツはサヤと2人で夏まつりを楽しむ。
サヤの浴衣姿を誉めるが、そこにはまだココノツに恋愛感情はない。
彼は顔に出やすいタイプなので、恋愛感情がある場合は顔を赤らめるなどの反応があるのだ。
祭りの終盤、ココノツは金魚すくいで取った金魚をサヤに渡す。
サヤは子供のころにも、今と同じようなシチュエーションがあったことを思い出す。
その時ココノツからもらった金魚は今でも大事に飼っている。
昔の思い出も手伝い、サヤはココノツの気持ちが嬉しくて、満面の笑みを浮かべる。
その時のサヤの笑顔にココノツはドキッとするのだ。
頬を赤らめて、明らかに今までとは違う反応。
ここから、ココノツとサヤの恋愛関係が幼なじみから進展していくのだ。
夏まつりは恋が発展する特別なイベントの1つだ。
金魚すくいのシーンはなつまつりの魅力を余すところなく描き切った名シーンだと言える。
次回作「よふかしのうた」との比較
作者の次回作に「よふかしのうた」があるが、『だがしかし』との比較をしていきたい。
「よふかしのうた」は、「週刊少年サンデー」にて、2019年より、連載が始まった。
2021年11月時点で電子版を含む累計発行部数は160万部を突破しており、2022年7月からはアニメ化も予定されており、話題沸騰中だ。
この物語は人間の主人公がある夜、吸血鬼の少女と出会うところから始まる。
メインテーマとして、人間と吸血鬼の「恋愛」が描かれている。
『だがしかし』との比較だが、まずは共通点からみていきたい。
一つ目に恋愛要素が描かれている点だ。
「よふかしのうた」では主人公とヒロインの恋愛、『だがしかし』ではココノツとホタル、サヤとの恋愛。
ただ、「よふかしのうた」では人間が吸血鬼になる方法が、その吸血鬼に恋をすることなので、『だがしかし』よりも恋愛要素は大きな割合を占めている。
主人公が恋愛について悩む描写も多く描かれている。
二つ目にどこか妖しげな表現を用いる点だ。
「よふかしのうた」では初めて会った主人公とヒロインの二人が同じ布団で寝るなどのかなり妖しげな雰囲気を出していたり、ヒロインが下ネタ好きだったりとそういった要素が多く出てくる。
その片鱗が『だがしかし』でも出ており、第五かし「生いきビール」では、ココノツの勘違いもあったが、かなり妖しい線をいっていた。
作者が『だがしかし』の巻末のあとがきで書いていたが、そういった表現の話が好きなようである。
次に2つの作品の大きな違いだが、『だがしかし』は突拍子もないがそれでも駄菓子をテーマとした日常が描かれているのに対して、「よふかしのうた」は「よふかし」、「吸血鬼」がテーマであることから、シリアスな話が多い。
時には命のやり取りも発生しており、手に汗握る展開が続くことも。
ヒロインの謎に包まれた過去を調べるなどのサスペンス要素もあり、『だがしかし』ののんびりとした雰囲気とは異なってくる。
まとめ
漫画「だがしかし」の批評と感想の紹介を行ったが、やはり駄菓子を通じて、思い出を共有できるのが今作の大きな魅力だと改めて感じた。
「ビンラムネ」を家族みんなで食べて、むせた記憶が懐かしい。
他にも今作で登場した「ボンタンアメ」をなめながらこの記事を書いていたこともあり、今作の影響は大きい。
個人的に『だがしかし』と「よふかしのうた」を比較できたことで多くの発見があり、まとめることが楽しかった。
『だがしかし』のサヤと「よふかしのうた」のアキラに共通する幼馴染の立ち位置など、まだまだ見つかる共通点は多そうだ。
「よふかしのうた」が7月からアニメ化するが、次々に公開されるビジュアルに期待が高まる。
ぜひともチェックしたい作品だ。